価値守るために① 保全上の課題とは


ナイトツアー中に遭遇したノネコ

ノネコ増加 過ごしやすい環境

昨年3月、国内34番目の奄美群島国立公園が誕生した。従来の「生態系管理型」だけでなく「環境文化型」の考えも盛り込まれた国立公園で、世界遺産登録の前提基準が満たされたことになる。登録のためには、▽自然美▽地形・地質▽生態系▽生物多様性―の四つで、どれか一つ以上の世界的な価値を有するなどが要件とされている。奄美は生物多様性で推薦書が提出されており、今後はその価値が損なわれないように、希少動植物の保護や外来種対策などの保全の課題がクリアされなければならない。自然保護の現場で考えた。

 

世界自然遺産登録を目指す奄美大島では、山中でノネコ(野生化した猫)が、アマミノクロウサギやアマミヤマシギなど固有種や在来生物を襲う、いわゆるノネコ問題がある。IUCN(国際自然連合)の現地調査でも、この問題への対応を問われている。奄美の森でどのような事態が起きているのだろう。解決に向けた取り組みは進んでいるのだろうか。(以下猫をノネコ、半野生化したノラネコ、飼い主がいる飼い猫と分けて表記する)

3月上旬に、野生生物を観賞するナイトツアーをエコツアーガイドに依頼した。場所はクロウサギなどが良く見られるという奄美市住用町の三太郎峠などを巡った。

ガイド車両に同乗させてもらい、国道を南下して現地を目指した。当日は雨が心配されたが、ガイド中はあまり降り続けることはなくアマミノクロウサギやアマミヤマシギ、アマミイシカワガエルなど多くの生物を観察。途中からは雨が強まり、カエル類がたくさん出てきてくれた。

現地の三太郎峠には、東仲間の方から低速で上って行った。モダマの生息地を通過してしばらく行ったところ、ノネコと不意に遭遇してしまった。

首輪をつけておらずTNR(ノラネコを捕えて不妊手術し元の場所などに放す)された痕跡がなく、麓の集落からかなり離れた場所にいたので、ガイドの方もノネコでないかと考察。ノネコは懐中電灯と車のヘッドライトに照らされながらも、崖ののり面を上り森の中へ姿を隠した。

これまでノネコがクロウサギを口にくわえた写真や、希少種を襲う動画などを報道で知っていたが、実際に山にいる姿を目撃してノネコ問題を身近なものと認識。その後にアマミヤマシギやクロウサギなどが出現したので、ノネコの存在が本当に在来種にとって脅威になっていると実感できた。

 ▽ノネコの脅威

奄美野生動物研究所の塩野﨑和美研究員は、龍郷町内で同町のTNR事業に関わり、ノネコのフンの食性分析などから生息頭数を推察。「2013年時点で、奄美大島の山の中には600~1200頭のノネコがいると推定される。ただマングース駆除事業などで固有種や在来種が回復しつつあり、森の中はノネコにとって過ごしやすい環境になったことで、現在はこれより増えているだろう」と指摘する。

ノネコの増加については、「発生源のノラネコや、放し飼いされている猫の飼育環境が良くなり、寿命が長くなることで繁殖数が増えたことや、林道など道路改良されて集落から、山に行きやすくなったことで増えたのでないか」と考察する。

塩野﨑さんの食性分析で、ノネコが食べているほ乳類で最も多いのがケナガネズミで出現頻度43・1%、次いでクマネズミ39・2%、アマミトゲネズミ38・2%と続き、クロウサギは15・7%だった。

「ノネコは食べる目的以外で、攻撃本能で小動物などを襲うことがある。脅威になる生き物はハブぐらいでないか」と塩野﨑さんは説明。「奄美の山中では、人間が持ち込むまで肉食のほ乳類はいなかった。クロウサギなどはノネコのいない環境で生き続けてきた。ノネコから身を守る手段など身につけていないので山で遭遇したら、なす術もなく捕まってやられてしまうだろう」。

 ▽高い繁殖力

猫の高い繁殖力もノネコ問題に影響する。猫は生後4~12カ月で繁殖可能となり、一度の出産で4~8頭が生まれ、母体の栄養状況が良ければ年に2~4回出産するという。

塩野﨑さんは、「山にノネコが存在するということは、年に1~2回で、1~2頭しか出産しないアマミノクロウサギへの影響は大きなものがある。奄美大島、徳之島では捕獲し、早急に山から出す必要がある」と強調する。直近では環境省が17年のデータで、クロウサギの死体情報の収集分析から奄美大島の死体確認数84件中、19件がノネコなどの捕殺によるもので過去最多になったと報告。同省職員は、「このデータは死体の残存状況がよく解剖検査で死因を分析できたものによるもので、実際の被害数はまだ多いと思われる」としている。