急激気温低下も凍結以外生息

ミカンコミバエの生態を示す資料(沖縄県病害虫防除技術センター提供)

増殖活動 成熟期間は遅延可能性も
産卵可能なメス潜在

 記録的な大寒波の襲来で奄美地方も気温が急激に低下し、24日には奄美市名瀬で115年ぶりの降雪を観測した。南の島に押し寄せた、この冬一番の寒波により熱帯性の害虫であるミカンコミバエ生息への影響が気になるところ。専門機関によると気温が6~4度台まで下がっても凍結しない限り大きな影響はなく、引き続き寄主植物の除去など防除取り組みが求められそうだ。

 名瀬測候所が降雪を観測した同日は、気温が6度台、さらに4度台まで低下することも。最低気温としては奄美市笠利町で午後8時15分に3・7度を記録している。25日も最低気温は4・9度まで低下したが、最高気温は10度を超えた。

 ミカンコミバエの侵入・発生により緊急防除区域となっている奄美大島(加計呂麻・請・与路島含む)では、オス成虫の誘殺数ゼロが4週連続で続いている。ただし産卵可能なメス成虫が潜在している可能性があり、冬場に除去された寄主果実から幼虫が確認されている。

 今回の気温の急激な低下による生息への影響について沖縄県病害虫防除技術センターは「産卵や孵化といった増殖活動で、成熟期間が遅延する可能性があるかもしれないが、生息に関しては大きな影響はないのではないか。生息する場所による温度の違いのほか、幼虫なら果実の中、蛹=さなぎ=なら土の中であり外気よりも温度は高い」と説明。降雪につながるまで気温が低下しても奄美の場合は数日間であり、今後の気温予想では最高気温が「夏日(25度以上)」近くまで上昇する日もあることから「凍結死しない限りミカンコミバエは生息する。気温の低下も一時的なものであることを注意しなければならない」(同センター)。

 ミカンコミバエの生息と温度との関係については『ウリミバエとミカンコミバエの日本および近接温帯地生息の可否について』と題した研究論文が発表されている。発育生殖有効積算温度、低温致死日数、低温における飢餓生存日数の実験結果から推論したもの。それによると、「夜来の低温で麻痺した成虫も日光に浴すれば蘇生して、運動能力を回復し、付近に食物があれば摂取することも考えられる」とし、夜間が零度以上で体温を考えた昼間温度9度以上の所は、「食物さえあれば越冬は可能」としている。

 今月19日に農林水産省であった第2回ミカンコミバエ種群の防除対策検討会議では、有人ヘリコプターを活用したテックス板(誘引物質のメチルオイゲノールと殺虫剤を混ぜた木材繊維板)の投下や地上での設置、寄主果実の除去などの防除効果で「オスの成虫密度は著しく低下していると考えられる」とされた。

 しかし果実への幼虫寄生の報告が示すように冬場でも産卵可能なメス成虫が潜在。産卵により、各島でミカンコミバエの蛹、幼虫、卵も潜在している可能性がある。これが越冬すると気温の上昇する春に越冬成虫の活動が開始されるとともに、新たな羽化が開始されるリスクがある。早期根絶を図るには、現在生じているリスクに即した防除対策の徹底が鍵を握ることになる。防除対策を効率的・効果的に実施するには、「誘殺状況や寄生果の確認状況を分析しつつ、いわゆるホットスポット(ミカンコミバエが侵入し寄生する場所)を特定しながら実施していくことが重要」との指摘が第2回検討会議では挙がった。
(徳島一蔵)