多様さの先に 下

介護事業所が行っているサービス。専門性や専門機能を地域と結びつけることで、高齢者の福祉は向上する

「総合的な判断を」
地域と事業所連携 適したサービスへ

 総合事業移行後の介護事業所との関係。満永さんはこう語る。「訪問介護や通所介護を行っている事業所は専門的なノウハウをもっている。ぜひ生かしていきたい。そのためにも事業所が総合事業に、どう関わっていけるか企画・提案して参画してもらいたい」。

 龍郷町が進める総合事業での地域力の活用。これは介護保険新事業のねらいでもあり、龍郷町が目指す方向はそれに基づいたものと言える。ただし厚生労働省老健局振興課が示している総合事業ガイドラインには「既存の介護事業所による既存のサービスに加えて、NPO、民間企業、ボランティアなど地域の多様な主体を活用」の文言がある。訪問介護の最前線に立つヘルパーの技能や知識、通所介護を専門的に行うデイサービスの機能をより有効に生かすことで総合事業が掲げる多様化に結びつくのではないだろうか。

 龍郷町が総合事業で目指す訪問型・通所型サービスでは、サービス実施にあたって「地域包括支援センター職員とご本人のニーズに見合った支援(サービス)を検討」とある。本人のニーズを適切に把握していかなければならないが、やはり利用者自身の意思を尊重し、多様なサービスから選択できる形にすることが介護保険制度の趣旨に沿うはずだ。

 ▽見極め

 1年後となる最終年度に要支援認定者へのサービスを総合事業に移行する奄美市。市高齢者福祉課によると、新事業で対象となる奄美市の要支援者数(14年10月時点)は、要支援1が486人、要支援1より要介護状態になる可能性が高い要支援2が476人認定。要支援1認定者のうち訪問介護利用者数は68人、通所介護利用者数133人。要支援2認定者の方は訪問介護利用140人、通所介護利用119人。ヘルパーによる訪問介護利用は要支援2、デイサービスの通所介護利用は要支援1が多いのが特徴だ。

 こうした訪問介護、通所介護サービスを実施している事業所を対象にした総合事業説明会を市は3月3日に計画している。「総合事業では現行のサービスに加えて、緩和した基準によるサービスや住民主体による支援、短期集中予防サービスなど多様なサービスが提供できる。一方でサービスに必要な費用が賄えるよう上限(これまでの費用実績を勘案した)が設定されている。将来的にも新事業のサービスが維持できるようにするためで、上限内で実施するには多様なサービス(現行、緩和、地域の協力)のうち、状態等に応じて、どのサービスを利用してもらうか見極めが大事」。同課主幹の永田孝一さんは語る。

 奄美市では来年4月の新事業移行を前に要支援1、2認定者の更新にあたり適したサービスの見極めを総合的に検討していく方針だ。この見極めでは、現在要支援者へのサービスを行っている事業所とも協議していく。「事業所のみなさんはプロ。サービスの見極めにあたっては当然事業所側の意見を尊重しなければならない」(永田さん)。

 介護が必要な状態になることを防ぐために奄美市では介護予防も重視。リハビリ専門職などここでも事業所との連携を視野に入れている。一方で課題もある。総合事業を地域づくりにもつながる施策と捉えている中、地域の力をどのようにして引き出すかだ。

 地域力の面は隣同士、近所つきあいが濃密な関係にある龍郷町の方が勝っているかもしれない。奄美市では生活支援コーディネーターを配置しているが、市全体担当の1人のほか、8地区への配置を計画しているものの、まだ4地区(下方、上方、奄美、笠利)にとどまっている。名瀬地区のなかには自治会組織が休止状態のところもあり、地域住民同士のつながりの希薄さが高齢者世帯などの孤立を招いている。こうした課題の改善にも取り組み奄美市では1年後の新事業移行に備えていく。

 ▽抑制の懸念

 「総合事業も介護保険制度の中で実施されるものだ。地域力を優先するあまりサービスの抑制につながらないか。必要なサービスが利用できないということにならないか。介護保険給付費が少ないから、その市町村は先進地という見方に慎重になるべきだ」。奄美市名瀬にある居宅介護支援事業所なんり・介護支援専門員(ケアマネジャー)の森徳久さんは指摘する。

 新事業では要支援1・2といった「軽度の人」を対象にするとしている。森さんは「要支援1・2認定者でもお金の管理ができない、薬が飲めない、病状を訴えることができない、外出ができない―など専門的な支援が必要な人がいる。決して軽度とは思わない。本人の状態や地域環境を含めて総合的に判断することなく、いきなり新事業に移行することには問題がある」と懸念を示す。

 高齢者の生活を支え介護を予防する多様なサービスの展開にあたり、新事業では地域住民の力の活用を打ち出している。「関わる地域の人は相当のレベルが求められる。ヘルパーの技能はとても奥が深い。立派な専門職だ。ケアプラン(介護サービスの給付計画)作成などを担当する我々にとって、ヘルパーから得られる情報は非常に重要。先ほどもヘルパーから『いつもと様子が違う。鼻水があり食欲もない。体調がすぐれない』という情報が寄せられた。こうした状態の変化を地域の人たちが判断できるだろうか。ヘルパーには専門的な技能・知識に加えて長年の経験もあり、このような介護の質の高さにもっと目を向けるべきだ」(森さん)。

 ヘルパーが行う訪問介護も現行では限度(回数・時間)がある。そこを補う方法として地域力の活用へと踏み出せないか。高齢者が住み慣れた地域でいつまでも暮らせるよう「地域で支えていくという社会づくりは、とても大切なこと。ただそこで財政的な面を理由に専門的な関わりが排除されてしまうと、いっきにサービスの質が低下する。地域と、専門職や専門機能を有する事業所が連携していくことで、利用者一人ひとりに適したサービスが提供できるのではないか」(森さん)。

 新事業が介護保険サービスの抑制につながると生活環境の悪化、症状の重度化により要介護認定者の増を生む可能性がある。そうなれば介護が必要な高齢者がさらに増えることになり、介護の総費用は膨らみ続けるだろう。支えと予防には、どのようなサービスが必要か。新事業を担う市町村は多様さの先にあるものを描かなければならない。