歌姫 城南海


奄美で育み得た大自然への恩恵と力、それを表現してほしかった

THEカラオケ★バトルで、城の声と存在に感銘を受けたという宮本


 8月に東京・新橋演舞場で開催された「狸御殿」で、「奇跡の歌姫」は、初のミュージカルに挑戦した。日本を代表する演出家・宮本亜門の放つ魔法によって、彼女の声はさらに磨き上がり、多く人たちの心に響き渡った。

〝ミュージカル界の貴公子〟と城南海を引き合わせたのは、やはり歌だった。「THEカラオケ★バトル」にゲスト出演。彼女の純真な歌声に驚き、やがて感動に変わる。「タレント性というより、生まれるべきして生まれた、神とつながっている方だと思いました」。亜門は、その理由を自らの経験を基に説明する。「私は沖縄の御獄のそばに家を作ったこともあり、自然の精霊たちと交流できる歌を聞くのが大好きです。例えば、沖縄では古謝美佐子さん、また奄美では朝崎郁恵さんの歌などに心震えます」。鼓膜に振動する調べには、「カラオケという機械の情報を集めた上での採点になりますが、それ以上に人として、心に訴えるものがあった」という。

女優としては未知数の彼女に、不安はなかったのか。「優しいだけではなく強く、または厳しくせりふを言わなくてはなりません。ただ、城さんは、もう歌で充分に表現されているので、せりふとしても、必ずやすごみが出せる」。その確信通りに、尾上松也、渡辺えり、小倉久寛らそうそうたる俳優陣に交じって堂々の演技を披露。8月6日、関東在住の奄美出身者が応援に大挙。奄美の小さな大女優に、誰もが目頭を熱くした。

城を抜てきした、最大の理由を亜門は語る。「白木蓮の役が舞台で最も大切な役だからです。単なる木ではなく、森を守る、国を守る自然、壮大な地球の神の役。生きとし生けるもの全てを、見守り、人々に愛を注ぐのです。ここでは人々ではなく、狸たちなのですが(笑)。そして最後に、白木蓮は悪と戦い、朽ち果てます。愛を注ぎ自らの命を落としていく。しかしその魂は、生きる者全てに注がれるのです。奄美で育み、得た大自然への恩恵と力、それを舞台で余すところなく表現してほしかったからです」。一方で、城には、歌い手として究めてほしいとの心情を明かす。

「願わくは国を越え、人種を越え、戦争と反対のことのため、人々と自然のため歌を歌い、生きる素晴らしさを神から選ばれた伝道者として、光を届けていってほしい」。黄金に輝く富士の緞帳が上がる。左右に満開の桜。中央に白木蓮。歓声に続き大拍手。静寂の後“さくらさくら弥生の空は・・・(城の独唱)。鳴り止まない万雷の拍手・・・。背景にあった紅白の横断幕は、国民的歌合戦への初出場を暗示しているとは、考えすぎだろうか。
(高田賢一・文中敬称略)