歌姫 城南海



〝ライバル〟という名の、親友のような関係の翠と城(レインボータウンFM提供)

「負けても仕方ない」とライバルに思わせる際立つ丁寧さ

「THEカラオケ★バトル」(テレビ東京系)で10冠を誇る、城南海。あまりの強さに、嫉妬やねたみが起こりそうなものだが、彼女の周囲には不穏な空気が一切漂わない。人々に愛される理由を、ライバルたちの言葉に探してみる。

「ライバルというより、良き姉」とは、4枚目のシングル「函館慕情」が好評な演歌界の若大将・徳永ゆうき。城の歌のうまさは、耳に入っていた。だが、「いつもニコニコしていて穏やな城さんが、いざ歌うと、グインを駆使して圧倒。その声量はとにかくすごかった」。2年ほど前の初対面は衝撃的だった。

一方、8月の舞台「狸御殿」でも「THEカラオケ★バトル」と同様に城と熾烈な戦いを演じた、メディアでも称賛される、実力派オペラ歌手の翠千賀も驚愕する。「ポワーンとしていて、かわいいけれど、本番になると一変、すごい精神力の強さを感じました。若いのにこんな才能の人がいるのか」と。昨年夏に初めて対戦した翠は、城に敗れた。悔しさが募ったが、「南海ちゃんのことを知るうちに、全く感じなくなってしまった。不思議ですよね」と笑みを浮かべる。ライバルでありながら「負けても仕方がない」と納得するそうだ。

徳永と翠から伝わってくるのは、城の人に対する丁寧さだ。「いい点数を取れるのかを本当に分かりやすく、アドバイスしてもらった」(徳永)。「芝居でも何でも聞くとオブラートに包まず、年下なのにズバっと言ってくれる。それが全然失礼に聞こえないんですよ。同じ土俵に立っていると認めてもらえる、ライバルと呼ばれるのは光栄です」(翠)。歌い手としてのプライドを懸け、百分の一点を競い合う彼らだが、城はやさしい先輩として徳永を見守り、戦いを超えた親友のように翠をとらえているようだ。翠は「彼女と接していると、海に浮かべさせられているような気がしてくる。のんびりと心地よく、これが島時間なのかなあ、と思います」と、遠い目をして語る。ライバルは将来、どんな関係を望んでいるのか。「10年後20年後、お互い力をつけて奄美のみなさんを勇気付けられる存在になりたい」(徳永)。「おばあちゃんになった時に、新橋演舞場の狸御殿や、THEカラオケ★バトルで戦ったよね~と笑いながら、おせんべいでもかじっていられるよう、友情を築いていきたい」(翠)。城は出会う人たちを紡いでいる。奄美で育まれた、その愛で。奇跡の歌姫は、18日奄美観光ホテル孔雀の間で「ウタアシビ2016秋」に舞い降りる。ライバルや先輩唄者らの情熱を受けながら…。

(高田賢一・文中敬称略)=おわり=