「共存を探る(中)」

鹿大国際島嶼教育研究センター奄美分室が果樹園に設置した自動撮影カメラの画像により、アマミノクロウサギによるタンカンの食害が確認された

果樹園の周辺には生息を示すアマミノクロウサギの巣穴もある

「実態調査を」「無関心に憤り」

 「2012年に入植したが、翌年から被害が出るようになった。ここ2、3年ひどくなっている。樹の表皮をかじり食い荒らすことから、対策として樹を覆う形で根元部分に肥料袋(ビニール袋)を50㌢ほど巻いた。でもあまり効果はない。クロウサギが肥料袋の上に乗り、巻かれていない部分をかじるのだから」。被害農家でもある大海さんが語った。

 福元盆地にある大海さんの果樹園の面積は約7㌶で、この16%で被害を受けているという。深刻なのは実際に果樹園を案内してもらった東秀幸さんだ。二人とも同じ時期に入植し有望地でのタンカン生産に取り組んでいるが、東さんの場合、1・4㌶の果樹園のほぼ100%で被害が出ている。

 「福元は、山際に果樹園があり、そこはクロウサギの生息場所のため、タンカンを植えてある果樹園はクロウサギにとってエサ場のようなもの。イノシシやヒヨドリなどのように果実を食べるのならまだまし。クロウサギは樹の表皮や葉部を食い荒らすため樹勢の低下で生長が止まり、枯れて生産できない状態に追い込まれているものもある」。クロウサギの生息場所を示すように果樹園の周辺には巣穴もあった。

 大海さんは続けた。「これは福元だけの問題ではない。クロウサギの生息範囲が広がる傾向にある中、同様に山間部にある奄美大島の果樹園で、こうした食害が起こるだろう。われわれ果樹農家はクロウサギを害獣として駆除や排除を求めているのではない。こうした希少種と果樹農業が共存できるような方策を見いだしてもらいたい。それには行政をはじめとした関係機関が関心を示してほしい。それが世界自然遺産を目指す島としてふさわしいことではないか」。

 ▽直視を

 東さんの被害は経営の存続を左右しかねない。「収穫できる成木は640本。本来なら3㌧の収量が見込めるが、食害によって十分の一のわずか300㌔。5年間かけてここまで来たのに、もう一度植え直さなければならないだろう。ゼロからのやり直し」。

 苗木代、肥料代、薬剤代といった費用に草刈りなどの労力…経済的、肉体的、精神的にも大きな負担を伴う。苦悩の表情を見せながら東さんは言い放った。「共存を考えていくためにも、行政はこの実態を直視してほしい。クロウサギも対象に加えて被害実態調査に乗りだしてもらいたい。被害以上に行政の無関心ぶりに憤りを感じてしまう。農家を守るのが行政ではないのか」。

 東さんは被害を嘆くだけでなく自ら効果的な対策を探っている。手応えを口にするのが電気柵。東さんの果樹園には、園を囲むように電気柵がある。高さしだいで果樹園への侵入を防げる可能性が見えてきたのだ。「設置した電気柵は2段構造(高さ40㌢)。イノシシは防げても、クロウサギは入ることができる。試しに一部を3段(高さ60㌢)にしたところクロウサギが入らなくなり、効果があった」。

 2~3㌶にわたって張り巡らしている電気柵は自費で。1㌶あたりの費用は20~30万円。この負担が新たに加わっても食害を抑制できればタンカンの植え替えを決意できるという。

 ▽研究

 「福元の場合、クロウサギの生息地に果樹園があるようなもの。クロウサギの保護増殖対策などにより減少していた個体数が回復してきた生息環境の中で、お互い(クロウサギと果樹農家)が圧力をかけあっているような状態」と被害の現状を解説するのは、鹿児島大学国際島嶼教育研究センター奄美分室の鈴木真理子プロジェクト研究員。

 福元盆地を舞台に、アマミノクロウサギの繁殖生態と養育行動を奄美両生類研究会員でもある大海さんとともに研究している鈴木さん。大海さんらの情報をもとに昨年11月下旬、果樹園で被害調査を開始。自動撮影カメラを設置したところ、クロウサギが夜間、タンカンの枝上で樹の表皮をかじる様子が撮影された。クロウサギによる食害を示す決定的証拠となった。

 鈴木さんは、大海さんらの訴えである果樹農業とクロウサギの共存のための対策の必要性に理解を示す。方法の一つである電気柵については、「電気柵はイノシシなどの野生動物の侵入を防ぐのに効果的であることがわかっており、クロウサギにも有効だろう。ただ簡単ではない。電気柵を施せば、それですぐ解決ということにはならないかもしれない」と指摘する。