車いす犬ラッキーと徳之島

車いす犬ラッキーと徳之島

ゲスト参加で住民(聴講者)を感動させた「車いす犬ラッキー」と島田さん=18日、徳之島町

講師のノンフィクション作家小林照幸氏

「人と動物の共生、命の意味を」
作家・小林氏が動物愛護講演

 【徳之島】環境省モデル事業を活用した動物愛護講演会(県保健福祉)が18日、徳之島町生涯学習センターであった。徳之島を舞台にした「闘牛の島」や「車いす犬ラッキー」など著書でもおなじみの大宅賞ノンフィクション作家小林照幸氏(50)が演題「車いす犬ラッキーと徳之島」で講演。物語の主人公・島田須尚さん(68)=同町亀津=と愛犬ラッキーもゲスト参加してふれあい、人と動物の共生、命の意味を考えさせた。

 講演会は、環境省の「人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト」モデルを活用、住民の動物愛護思想の普及・啓発の一環。島田さんの愛犬ラッキーは交通事故に遭って脊髄(せきずい)損傷の重傷を負い、知人らは安楽死を勧めたが、諦め切れず、沖縄の動物病院で2度の大手術。四六時中の介護も覚悟し、犬用の車いすを発注して愛情を注いだ。その愛犬物語は小林氏の目に止まり昨年「車いす犬ラッキー―捨てられた命と生きる―」(毎日新聞出版)に著し全国に紹介中。

 家族連れなど約60人が聴講。小林氏は、同発行の別視点に「飼うのに飽きた」「大きくなってかわいくなくなった」「引っ越し先はペットが飼えない住宅事情なので」などの理由で、飼い主が終生飼養(最後まで面倒を見る)を放棄し、家族の一員として飼っていた健康な犬や猫を保健所や動物愛護センターなどに託す殺処分の現場を全国各地で取材した経験があったことにもふれた。

 緻密な調査・統計分析にも基づき、「行政も好きで殺処分しているのではなく、住民の健康を守る行政サービスとして動物愛護管理法と狂犬病予防法に基づいて行っている」。動物愛護管理法では犬猫の飼い主の「もう飼えない」という訴えに基づく「引き取り」(多くの自治体では有料化)を定めている。狂犬病予防法では首輪のない徘徊(はいかい)犬の「保護」、飼い主に捨てられた犬の「捕獲」を定めていること。そして「保護・捕獲」された犬は7~10日前後の収容期限内に飼い主が返還を申し出なければ、殺処分となっている現実もあらためて突きつける。

 世界自然遺産登録への外来種問題にも関連して「殺処分は可哀想。だから野に捨てる。誰かが飼ってくれるはず、という行為を〝愛情〟と意識する飼い主も多い。捨てられた犬や猫はやむなく野鳥や小型の哺乳類などを自力で捕食する外来種になる」。ノネコによる希少種の捕食の原因を指摘する。

 犬猫などペットの愛護動物を野に捨てる(遺棄)、いじめる、水や餌をあげない―など虐待行為は、動物愛護管理法に違反(100万円以下の罰金)の犯罪行為。家族の一員である犬猫を捨てる無責任な大人の行為は「子どもがどこかで見ているはず、との自覚が欠落している」とも強調。

 その上で、ラッキーにとって島田さんは「命の恩人であり、父親であり、友達。この世で最も信頼できる存在。島田さんがラッキーと今を過ごすこの南の島が〝徳のある島〟『徳之島』であるのは偶然ではない、と言ってもいい」。そして「かつて捨て犬であったラッキーが、不慮の事故を乗り越えて、徳之島で今、車いすで元気に大地を走り回り、さらに海水浴も楽しんでいる姿は、人と動物との共生という命の意味、終生飼養の責任とは、を教えているのではないか」と結んだ。