鹿大油漂着調査WG報告会

鹿大油漂着調査WG報告会

名瀬公民館金久分館であった報告会で、登壇したWG長の西教授

先月1日以降、奄美群島の広い範囲で漂着が確認された重油=資料写真=

環境・生物への短期的影響なし
毒性成分少ない「臭いあり観光対策を」

 

 鹿児島大学は20日、奄美市の名瀬公民館金久分館で「薩南諸島の油類漂着問題に関する鹿児島大学調査ワーキンググループ(WG)報告会」を開いた。今年1月に奄美大島西方沖で沈没したパナマ船籍のタンカーから流出した油が奄美群島や十島村などの広い範囲に漂着した問題について、さまざまな角度からの調査結果を報告。WG長の西隆一郎水産学部教授は「短期的な環境や生物への影響は確認されていない。奄美大島以南では、現在漂着しているものについても紫外線やバクテリアによって風化し、毒性も弱まるだろう」語った。

 同ワーキンググループ(代表・高松英雄研究担当理事)は同大水産学部教授らを中心とした有志21人で構成。奄美群島や十島村での油漂着が確認されて以降、各担当分野の調査を続けている。報告会では6人が登壇し、参加した自治体職員らの前で、調査経過や結果を発表した。

 同タンカーから漂流した重油について、中村啓彦教授は漂流予測のシミュレーションを作成。タンカーから流出した油は、「黒潮の流れで一度北上し、季節風に流され、宝島や奄美大島に漂着した」とした上で、「3月上旬には、重油群は沖縄本島より南東に移動した」と予想した。また、今後もタンカーから残存重油が流出したと仮定した場合でも、夏季に強化される海流の影響で、日本海へ流れていく可能性が高いとした。

 海藻・海草・サンゴ類の生育状況に対しての影響を調査した寺田隆太農学研究科教授は、「奄美大島では海藻や海藻類に対する影響はほとんどないと考えられる。直接的な付着については局所的に影響があるかもしれないが、漁業に関してほとんど影響はない」と推測。このほかにも、登壇した各教授は、現地での調査内容などを発表。調査で採取した貝類などの生物に関する毒性成分分析は現在進めている途中だという。26日に鹿児島大学で開かれる同報告会では、より多くの分析結果が報告される予定となっている。

 生物への影響の初期的評価を解説した山本智子水産学部教授は、奄美大島や宝島で採取された漂着油を分析した結果を提示。石油構成成分の中で最も生物に対する毒性が強いと考えられる「PAH」の濃度が低くなっていると説明した。山本教授は「生物への影響について今後1年間は継続的に調査を続けたい」とし、「毒性成分は少ないものの、臭いがするので、観光シーズンまでに対策をした方が良いのではないか」などと提案した。