価値守るために③ 保全上の課題とは

水面に繁茂する特定外来生物オオフサモ

外来種増大の可能性も

 外来種対策も、世界自然遺産を目指す上で避けて通れない。環境省はマングースの根絶を目指し防除を実施して、それにより在来生物で一部回復が見られるようになっている。一方、外来植物に関しては、生態系被害防止外来種に指定されているオオキンケイギクやアメリカハマグルマ、セイタカアワダチソウの駆除活動が目立つが、奄美大島での分布状況の把握や全島的な対策はとられていない。関係者からは、県などに全体的な旗振り役としての役割を期待する声が出ている。

 先月、奄美市名瀬で鹿児島大学「薩南諸島の生物多様性とその保全に関する教育研究拠点整備」プロジェクトによる生物多様性シンポジウム「奄美の植物と世界自然遺産」が開かれた。専門家など6人が登壇して、世界自然遺産候補地の奄美大島と徳之島の植生や自然保護活動、登録に向けての課題などが語られた。

 講演者の一人である鹿児島大学理工学研究科の宮本旬子教授は、「奄美群島の植物相調査と最近の研究動向」で外来植物にも言及。同大の研究者グループが奄美群島の植物研究に組織的に取り組み始めてから約10年になるとし、「奄美には1000種以上の在来植物が生育している。全国と比べてシダ植物や単子葉植物の割合が高いのが特徴」と指摘した。

 外来植物は国内約1200種、県内で500種以上の記録がある。奄美ではこの数年間だけで99種の生育を確認。「奄美では温暖な気候により、熱帯産の植物が越冬できるので、今後も新たな種類が侵入して生育し始める可能性がある」(宮本さん)。

 ▽奄美の外来植物

 外来植物で奄美の淡水の生態系に影響を及ぼす可能性があるものとして、ホテイアオイや、特定外来生物に指定されているボタンウキクサ、オオフサモなどを列挙。宮本さんは、「河川や沼、水田などの水面を覆いつくすほど繁殖すると水流阻害や水質悪化などを引き起こし、水生動物相にも影響を与える」と警鐘を鳴らす。

 奄美の外来植物の例として、▽害虫がつきにくい有毒植物…キダチチョウセンアサガオ▽他の植物の成長を抑える物質を出す性質(アレロパシー)で単調な景観をつくる…ギンネム▽他の植物を覆うように育つ(被陰)…モミジバアサガオ▽海岸の保護区や林床への侵入…アメリカハマグルマ―なども紹介。宮本さんは世界自然遺産候補地の森林の生態系に影響する可能性がある外来植物について、「日陰でも育つ耐陰性を持つ。花が咲かなくても、地下茎や切れた茎などから繁殖できる。湿った所や空中湿度が高い場所を好む。このような特徴を持つ熱帯高地が故郷(原産地)の多年草(宿根草)に注意が必要」と指摘する。

 ▽オオフサモ群生

 県の自然保護推進員の宇都宮英之さんは、奄美大島にダイビングでよく旅行に来ていたことなどから13年ほど前に龍郷町へIターン。龍郷小学校の児童などに、アサギマダラのマーキングや外来種問題の指導を行ってきている。

 宮本さんが奄美の淡水の生態系に影響すると警鐘を鳴らす外来植物のオオフサモ。以前、宇都宮さんの指導で児童や一般対象の講座で、同町大勝の半田川に侵入している群生を確認し当時、住民への啓発も行われたが、その後完全に駆除されてはおらず群生地は放置されているという。

 宇都宮さんの情報をもとに、大勝の半田川流域に向かった。国道から町道に入り、以前に確認された場所を橋の上から展望し情報通りに、特定外来生物オオフサモの群生を目撃した。

 オオフサモは川幅の水が流れている箇所を覆いつくす勢いで繁茂していた。観賞用植物として流通し、川に捨てられたものが繁殖したのでないかとされている。

 オオフサモは南米原産で、1920年ごろに海外から持ち込まれ野生化し、筑後川水域や霞ケ浦(茨城県)などで繁茂して駆除など対策が行われている。宇都宮さんは奄美の外来種について、「全体的な状況を把握し、効果的な対策を行う組織が必要だろう」と話す。