十分か飛来への備え

十分か飛来への備え

ミカンコミバエの誘殺確認を受けて果樹農家も参加して行われた説明会(6月28日、奄美市名瀬)

 

複数地域での誘殺に直面
人員、予算適切か議論必要

 

 農林水産省の2018年度予算に消費・安全対策交付金がある。予算額は20億3800万円だ。都道府県等が地域の実態を踏まえて実施する、農作物の病害虫や家畜の伝染性疾病の発生予防・まん延防止、国産農畜水産物の安全性の向上などの取り組みを支援するもの。

 交付金の主な内容は、①病害虫の発生地域から一定期間内に根絶を図るための防除対策など②鳥インフルエンザなど家畜の伝染性疾病の発生予防・まん延防止③国産農畜水産物の安全性の向上④食品トレーサビリティ(食品の移動把握)の普及促進―で、トラップ設置などミカンコミバエ等の侵入警戒調査は「伝染性疾病・病害虫の発生予防・まん延防止」対策の中で進められている。地域を限定しない全国を対象とした予算枠である交付金による支援策の「ごく一部」と言えないだろうか。

 この18年度予算編成にあたり、予算概算要求を前にした昨年7月末、奄美群島市町村長会・同議会議長会は関係省庁に要望書を提出している。5項目に及ぶ要望の中には、農水省に対しての「重要病害虫ミカンコミバエ種群防除へ向けての適切な対応」もある。

 この中では適切な対応として、▽侵入防止に向けた対策に要する人員体制や予算の確保、初動防除に必要な資材の備蓄等必要な措置▽万が一、侵入が確認された場合、迅速に初動対応を実施するとともに、風評被害による奄美農産物の価格下落等が生じないよう支援策▽地元自治体と連携し、生産者や住民へのきめ細やかな情報提供―を求めている。16年7月の緊急防除解除後も誘殺確認は続いており、その際の迅速な初動対応やきめ細やかな情報提供は実現している。問題は人員体制や予算の確保だ。

 発生による定着ではなく、台湾、フィリピン、中国南部など発生国から風(台風・季節風などが起因)で飛来(飛び込み)した可能性があるとされている誘殺。昨年と今年の誘殺には違いがある。昨年は6月に沖永良部島、7月に徳之島と単発での確認だったが、今年は初確認の6月5日に天城、伊仙、和泊の3町で1匹ずつと複数地域にまたがった。また14日も瀬戸内町於斉(加計呂麻島)と徳之島町と複数地域で確認(それぞれ1匹)された。

 常設されている誘殺トラップで個体が見つかった場合、回収後、ミカンコミバエか確認する同定作業は国の機関である門司植物防疫所名瀬支所で行われている。通常月2回定期的に行われているトラップ調査の方は、県が市町村と委託契約を結んでいるが、誘殺が確認された場合、地元市町村職員だけでなく国や県の職員も参加して確認地域で現地対策会議が開かれる。複数地域での誘殺確認となると、離島の奄美では移動の関係から国・県職員が分散して対応しなければならない。

 この会議で国の対応マニュアルに基づく対応方針を確認し、トラップ増設調査や寄主植物調査、テックス板設置による初動対応・防除が進められる。「トラップ調査、誘殺の確認、それに伴う対応にあたる人員体制は複数箇所での誘殺が想定されていなかった。担当する国(植防名瀬支所=所長・庶務担当含めて職員9人)や県(大島支庁農政普及課特殊病害虫係同6人)の職員数が現状で十分か検討すべきではないか」。こんな声がある。

 今回の同日の複数地域誘殺は3カ所、あるいは2カ所だった。数がさらに増える可能性は否定できない。

 「奄美大島では緊急防除が行われたことでタンカン生産への影響が3年ほど続いた。長期化するだけに、飛び込みは常にあると認識し、人員配置や予算などを充実して沖縄県並みの侵入警戒体制へ対策を強化してほしい。奄美だけの問題ではなく屋久島、県本土も含めた鹿児島県全体の問題という姿勢で行政は取り組んでもらいたい」(JAあまみ大島事業本部果樹専門部会長・大海昌平さん)。

 予算は、農水省の全国枠の予算で確保されている。初動防除ではテックス板が設置されているが、1枚の価格は265円もする。初動では半径1㌔以内に1千枚設置される。この枚数なら費用は26万5千円だ。これまで6カ所で計6匹の誘殺が確認されたが、テックス板設置で約160万円投入されたことになる。防除で効果的なテックス板予算化で、沖縄県は全国枠とは異なり、沖振法の交付金が活用されている。奄美も奄振法で独自の予算化を実現できないだろうか。

 ミカンコミバエ侵入リスクは常にあるだけに、常時警戒が欠かせない。それには人員体制、予算が現状で十分か関係する行政だけでなく、最も影響を受ける農家を含めて「適切な対応」の議論が必要だと思う。
                                            (徳島一蔵)