小説「神に守られた島」作家の中脇初枝さん来島講演

民謡の披露もあった中脇初枝さん(右から2人目)の出版記念講演会=知名町=

戦時中の沖永良部が舞台
「島にも消えていった命がある」

 【沖永良部】小説「神に守られた島」(講談社出版)の作家、中脇初枝さんによる出版記念講演会(えらぶ郷土研究会主催)が11日、知名町中央公民館であった。制作に協力してくれた島民に感謝の言葉を述べた中脇さんは「私が戦争について書く時、『その人がその時、確かにそこに生きていた』ということを伝えたいと思っている。沖永良部にも消えていった命があり、(戦時中の)島の子ども達の生き方、暮らしぶりを描いた」と話した。

 小説は、太平洋戦争中の沖永良部島が舞台。中脇さんが島の住民から聞き取った実話をもとに書き上げた。

 会場には地域住民ら80人ほどが参加。幼少期の経験や小説家としてデビューしたきっかけを紹介した中脇さんは「裏付けのない自信は、自分一人では得られないもの。母親が『あなたならできる』と言い続けてくれたから小説家になれた」と振り返った。

 小説「神に守られた島」を執筆した理由について「東京大空襲の被害者や中国に出征した日本兵などから聞いた話と、沖永良部の戦争体験者の話が全然違っていることに驚いた。昔話や島唄、言葉など独特の文化を大切に受け継いでいる沖永良部の姿を、戦時中、懸命に生きていた人達の思いとともに物語として残したかった」と語った。

 会では、方言の保全活動をしている松村雪枝さん(同町在住)による島の昔話「ホーラのマーヤ」の読み聞かせのほか、小説にも登場する民謡「えらぶの子守歌」「イチキャ節」を地元の唄者が披露した。最後は「サイサイ節」「エラブユリの花」を参加者全員で踊った。

 えらぶ郷土研究会の先田光演会長は「戦争中に島の大人達が感じていたことを、子どもの目線で描いている点が素晴らしい。さらに、島に残る民謡や昔話の価値を知り、島の人とは別の目線で掘り起こしてくれた」と述べた。