死亡生徒の父親が会見

死亡生徒の父親が会見

会見で、目頭を押さえながら心境を語る父親

「指導死」再発防止を
「息子のようにまっすぐ生きたい」
「生徒支援」の実行訴え

 【鹿児島】3年前、奄美市で公立中学校1年生男子生徒=当時13歳=が自殺した問題で、第三者委員会からの報告書が遺族らに公表されたことを受けて11日、生徒の父親(奄美市在住、40歳代)と代理人の鈴木穂人弁護士が鹿児島市の県庁で記者会見した。「ある日突然、自死遺族になった苦しさは一生晴れることはないが、まっすぐに生きた息子のように自分もまっすぐ生きたい」と心境を語った。

 2015年11月4日、生徒は担任の家庭訪問を受けた直後に自殺。「自殺の原因は特定できなかった」とする学校からの基本報告に納得できなかった遺族は「熟考に熟考を重ね」奄美市に詳細調査の実施を依頼した。内沢達委員長(元鹿児島大教育学部教授)ら、県弁護士会などが推薦する6人の第三者委員会が16年5月に設置された。委員会は17年5月以降、計22回の協議、関係者へのヒアリング調査などを実施し、今月9日に「(担任による)生徒指導のあり方が大きな問題となった」などとする報告書が遺族らに公表された。奄美市で発生した事案だが「奄美市だけの問題ではなく、全国的にも意義のあることと考え会見に至った」と鈴木弁護士は鹿児島市で会見を開いた理由を語った。

 事件発生以降、遺族が公の場で心境を語るのは初めて。会見は約1時間半に及び、父親は時折涙を浮かべながら、発生から約3年1カ月の間の思いを口にした。

 報告書を受けて「何度も読み返して、その内容は良い報告書だと感じる」と述べ委員会に対する感謝を述べた。「委員会が公平性、中立性を保ちながらも息子に寄り添い、丁寧な調査をしてくれたこと。遺族の疑問に答えてくれたこと。今後二度とこのような事件が起きないための再発防止の提言を出してくれたこと」の3点を理由に挙げた。

 当初、学校からは「息子がいじめと思われる件で指導を受けた」と説明され「本当に息子は人の精神を傷つけるほどのいじめや嫌がらせをしていたのか」「自殺をして罪を償うというところまで追い込まれなければならなかったのか」などの疑問に悩み苦しんだが、報告書では「(息子の)発言をいじめと認定することはできない」と結論づけたことに「息子の名誉が守られた」と安堵した。

 一方、委員会の調査で「私たちの知らない学校、奄美市教委の姿、事後対応の内容などが新たな事実として分かった」とし、担任による体罰や暴力的な指導が日常化していた実態や、学校や市教委が発生当初経緯を「いじめ」と断定していたことなどについて「非常に憤りを感じる」と語気を強めた。

 「遺族の思いは、当初から真相究明と再発防止であり、損害賠償請求や関係者に対する責任追及は考えていない」と鈴木弁護士。本件を「生徒指導をきっかけ、あるいは原因とした指導死」とし「本件は指導死を認めた先駆的なもの。報告書がこれまで声なき声となっていた子どもの自殺自死事件の解明につながることを期待する」。学校や市教委に対しては、高圧的な「生徒指導」ではなく「生徒の立場に立った共感的子ども理解に基づく生徒支援」など「事実に向き合い、本報告書の提言内容を速やかに実行することが再発防止につながる」と訴えた。報告書に「本報告書は(生徒の)生まれて、生きて、自殺へと追い込まれ生涯を終えた命の記録である」と記載されていることに触れ「『命の記録』に応える社会でありたい」とも強調した。

 父親は「自殺する前日までサッカーの試合に出て、家族にとってはいつも通りの日常だった。誰もが予期せぬ出来事だった」と当時を振り返り「行き過ぎた指導が生徒を追い詰めることがどこでも起こりうる可能性がある」と問題意識を抱き、今後は「同じようなことが二度と起こらないよう、自分にできることをやっていきたい」と語った。