新時代あまみ 医療・福祉 下

情報交換サイトを積極的に利用している奄美大島介護事業所協議会の盛谷一郎会長。「よこいと奄美」の可能性に期待を示す


手すりが取り付けられた住居。支援の広がりが在宅での暮らしを可能にする(資料写真)

地域共生社会に役立つツール

 介護の現場が抱える共通の課題に人手不足がある。これもサイト内の求人情報によって解決した例があるという。介護事業所も経営している勝村さんは説明した。「ハローワークに提出する求人票には、男女の指定を含めて求める人材像を具体的に記載できない。サイト内なら具体的に示せるし、写真も添えて事業所の特長や方針・姿勢などをわかりやすく伝えることができる。応募する方もどのような人材が求められているのか、どのような職場なのか理解でき、求人と求職のミスマッチが改善できる。グループ内で情報を共有し他の事業所の求人情報の把握で、心当たりがある求職者を紹介することも可能だ」。

 ▽可能性

 サイトにより情報が具体的に伝わり、さらに共有により利用者同士で助け合うこともできる。また、双方向で話し合いができるのも魅力だ。「研修会や勉強会の開催案内だけでなく、動画機能を使い映像でその内容を伝え、それをもとに各専門職同士での意見交換などに役立てていきたい。グループで利用すれば、送信される動画に基づき、その内容についてパソコンやスマートフォンの画面を見ながら意見交換などのやり取りができる」(勝村さん)。専門職のそれぞれの部会は現在、定期的に設定された会場で行われている。今後は、会場に出向かなくても自分の職場に居ながら部会に参加という形もとれそうだ。

 坂元さんは、利用の広がりを医療・介護・福祉を提供する側だけでなく、ケアやサービスを受ける側にも目を向ける。「本人、家族もサイトを通しての情報共有に参加できるようしたい。一人暮らしの親が病気で在宅医療を受けていたら、本土で暮らす子どもは状態が常に気になるはずだ。だが、島から離れた遠方にいるため確認できない。それだけに必要性がある。子どもが登録しサイトを利用すれば医師や看護師、ヘルパーなどの書き込みを通して、現在の親の状態が瞬時にわかる。自らの書き込みにより、自分の考えを伝えることもできる。サイトの情報により、まるで親のそばにいるような安心感が得られるようになるのではないか」。日々の身体の状態をつかむことで、万一のときには親の元へ駆けつける準備・覚悟・気持ちの整理もできるだろう。

 勝村さんは語った。「情報交換サイトは、地域共生社会(誰もが住み慣れた地域で、生きがいをもって暮らし、共に支え合う社会)の実現に役立つツールではないか。情報の共有を広げることで専門職だけでなく、地域の人々をつなぎ関心や理解、行動へと結びつけ、それによって地域力が高まっていく」。

 ▽普及へ

 奄美大島介護事業所協議会の会長である盛谷一郎さんもサイトを通しての情報共有の必要性を認識し、サイボウズ(グループウェア)を利用してきた一人だ。

 「特に在宅の看取りの現場ではサイト利用が欠かせない。患者の容態に関する情報を瞬時に入手できることで予測を立てることができ、主治医を中心にして求められるケアやサービスを判断できる。ただ専門職のなかには利用をためらう人もいる。パソコンに不慣れ、サイトに表示されるバナーへの警戒、そして何よりも情報が漏えいするのではないかという不安がある。よこいと奄美が計画しているサイトのリニューアルにあたっては、もっとシンプルにして使い勝手を良くしてもらいたい。情報漏えいのないセキュリティー対策が万全であることが十分に伝わらないと関係行政機関も参加(サイト登録)しないだろう。誰からも利用され、信頼されるサイトとして奄美で普及してもらいたい」

 盛谷さんによると、看取りの現場では「グリーフケア」の役割も求められているという。身近な人と死別して悲嘆にくれる人が、その悲しみから立ち直れるようそばにいて支援することだ。一方的に励ますのではなく、相手に寄り添う姿勢が大切と言われている。「こうしたグリーフケアでも情報交換サイトを活用できるのではないか。まるで会話を重ねるように双方向で書き込むことで、相手の気持ちを理解し尊重しながら、こちらの気持ちを伝えることができる」「サイトを立ち上げる。それによって常に支える人の存在が身近になる。グリーフケアの取り組みが広がるきっかけになるのではないか」。

 盛谷さんは、ALS(筋委縮性側索硬化症=運動神経系が選択的に障害とされる進行性の神経疾患)の患者などを対象とした重度訪問介護の現場でも活用を期待する。「訪問ヘルパーは24時間対応しなければならない。こうした難病患者は奄美でも増えてきている。支える人材の確保が課題だけに、情報交換サイトを通して関わる専門職が広がったら、24時間多職種で見守る体制が確立できるだろう」。

 よこいと奄美の試み。まだ踏み出したばかりだ。さまざまな可能性を秘めているだけに、サイトへの信頼を高めることで普及が近づくだろう。

 (徳島一蔵)