新時代あまみ・住民自治(下)

「対話の行政」を掲げ、官民一体での政策実現へ動き出している龍郷町(役場庁舎)

行政目線と住民目線マッチング
「フィードバックし政策として実現」

 「地方自治体で市町村行政を考えた場合、住民との距離は町村の方が近い。敷居の低さだろうか。役場には住民の声がよく届く。市は規模が大きいため、行政と住民の距離間を感じる。住民や民間団体の声の反映、対話の行政を進める上では町村の方がやりやすいのではないか」。龍郷町の則敏光副町長は語る。

 財政課長、奄美群島広域事務組合事務局長、市民部長など奄美市の幹部職員経験がある則副町長。2017年の町長選で竹田町政誕生後、副町長に就いた。市町村行政に幅広く精通しており、団体自治を推進する上で住民自治への関心も高い。

 住民自治、実際にはどのような形で進められているのだろう。「竹田町政で重点にしているのが対話の行政。2018年度は5月に町内7校区で町民と語る会を開催した。出席したみなさんからさまざまな要望・意見が寄せられた。心掛けたのが、それを行政として聞きっぱなしにしないということ。要望・意見に対し、担当課で協議した上で町としての回答をまとめ、各校区への回答内容をそれぞれの公民館に張り出した」(則副町長)。回答は一律ではない。▽町の施策として実現できる▽予算面などの問題もあり検討したい▽難しい―の三つの観点から判断し、施策としての優先順位の明確化を図っている。

 ▽官民一体

 対話の行政は、さらに進展する。町民の要望・意見の集約だけでなく、さまざまな町政の課題を専門的に協議する場の開設だ。則副町長が「シンクタンク」と呼ぶ、「たつごうみらい会議」(座長・重野寛輝町商工会会長)。「行政目線と住民目線をマッチングさせ、官民一体で必要な政策を協議する場となっている」。みらい会議は昨年7月に第1回会議を開き、産業・雇用関係、子育て支援・自然関係という二つのテーマに沿って各委員の話し合いや、町民を対象としたアンケートも実施。年末に開かれた第4回会議で政策提言をまとめ町長に提出した。

 提言内容をみてみよう。▽農作業の受託組織で農業公社である一般社団法人 ファーマーズたつごう(仮称)の設立▽安心・安全対策基金の新規設置(防災対策事業を含む)▽一般財団法人 龍郷町開発公社(仮称)の設立▽地域おこし協力隊員の追加採用(情報通信関連施策の企画立案を行う専門性の高い協力隊員募集)▽外来種バスターズ創設▽子育て応援グランマ(祖母)・グランパ(祖父)制度―の6点だ。

 提言について則副町長は「国・県の予算の問題があるもの、龍郷町単独でなく奄美大島5市町村連携で取り組んだ方が効果的なもの、実施にあたり役場の組織編制が必要なものなどがある。ただし、『カネがないから、制度がないからできない』ではなく、提言をしっかり受け止め知恵を絞りたい。役場内だけでなく議会とも協議しながら政策としての実現を探りたい」と語る。新年度に向けて予算編成作業は大詰めを迎えているなか、提言の実現へ新年度は政策としての制度設計などに取り組み、予算化により事業としてのスタートは2年後の2020年度からになる見通しだ。

 今回の提言で、みらい会議の役割は終わりではない。今後もシンクタンクとしての機能を発揮する。町田酒造社長の中村安久さんは「官民一体で政策を協議する場がみらい会議だが、提言だけにとどまってはならない。政策策定から政策推進までを一貫して行う政策策定推進機関として町は考えてほしい」と注文する。

 協議の進め方でも、さらに発展・深化に目を向ける。「地方創生や住民参加型まちづくり等の専門家を講師として招いてはどうか。役場職員だけでなく、住民も専門的な知識を習得できる。また、全体的な協議だけでなく、テーマに沿って具体的に協議していくワーキンググループもみらい会議の中に立ち上げてもらいたい」(中村さん)。

 ▽「PDCA」の視点

 対話の行政を進めるにあたり、町長と副町長が「毎回の出席は欠かせない。非常に大事。住民の生の声を聞く機会と考えている」という会合がある。定例の会合として、毎月1回役場で開かれている駐在員会(各集落の区長出席)と、民生委員児童委員会だ。町が新年度事業として予算化を目指している集落内外灯のLED化も、この会合に町長・副町長が出席し、要望を受けたことがきっかけとなった。則副町長は語る。「各集落にある公民館は台風などの災害時、避難施設としての活用を呼び掛けている。ところが高齢者のみなさんは公民館のトイレが『足腰に負担がかかる和式だと行きたがらない』ということを、会合での意見交換で知った。行政では、そうした事情に気付かない。高齢者に避難していただく条件として洋式化は必要。改善に取り組みたい」。

 住民目線の反映・双方向の関係実現へ龍郷町が必要な組織(機会)として位置づけているのが、一般的に執行機関である当局と両輪とされている議会のほか、町民と語る会、みらい会議、嘱託員会・民生児童委員会だ。町行政に対し、さまざまな要望や苦情、意見や提案などが寄せられる。「まずはしっかりと聞くこと。その上で、関係者間(議会・みらい会議)でフィードバックし、町の政策として実現したい」(則副町長)。

 フィードバックにあたり心掛けているのが「PDCA」の視点。計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)を指す。町長や副町長の姿勢が役場内に浸透し、「PDCA」が繰り返されることで、龍郷町では団体自治と住民自治が融合、「住みたいまち」に近づくかもしれない。(徳島一蔵)