産業振興の展望① 鹿大島嶼シンポジウム

奄美群島の果樹産業の展望などを講演した山本雅史教授

着果している「平井Red」(県農業開発総合センター大島支場提供)

果樹園芸
温暖な気候を有効活用

鹿児島大学国際島嶼教育研究センターがこのほど、奄美市で「奄美群島における産業の振興―現状・課題・展望―」と題した重点領域研究(島嶼)シンポジウムを開催した。奄美を調査エリアとする研究者が、農業、水産業、紬・糖・焼酎産業、情報通信産業の各テーマで講演した。発表者の講演を紹介していく。

同大農学部の山本雅史教授は、「奄美群島における果樹産業の現状と未来」と題して講演。スライド資料を用いて、果樹園芸の特徴や奄美のかんきつ類などを説明した。

山本教授によると、果物は樹に成る実を指し、ドングリやクリ、ナッツ類も該当。「イチゴは世界で果樹とされるが、日本では生産分野で野菜に位置付けられている」。

果樹園芸の特徴を、▽同じ樹を利用した生産▽適地適作の重要性▽集約的な栽培体系の重要性―などと例示。「環境が合わないと栽培が困難な、手間がかかり技術を要する農業」と語った。

果樹は生育適温で、落葉果樹(冬季の低温を受けないと翌春に発芽・開花しない)と常緑果樹(冬季の低温に弱い)に分類。「奄美群島は冬場に低温があまりないので、常緑果樹の栽培に適している」。

奄美群島と鹿児島市や那覇市との年間気温のグラフを示し、栽培可能な果樹を指摘。「奄美群島は落葉果樹の栽培が困難。常緑果樹、熱帯果樹を栽培しないといけないだろう」と強調した。

奄美群島の代表的な果樹として、タンカンなどのかんきつ類、スモモ、マンゴー、パッションフルーツを紹介。生産量を10年前と比較して「より奄美群島の気候に適した果樹が増えて来ている。最近の温暖化傾向で、品質が良くならないものは減っている」と分析した。
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日本在来のかんきつ類としてタチバナとシィクワーサーがあり、「奄美群島にはシィクワーサーが主に自生種として分布。海外導入種のクネンボやダイダイなどと自然交雑し、島の独特の在来かんきつ品種群が誕生したのでないか」と考察。「DNA分析で喜界島のケラジミカンは、クネンボと喜界ミカンが掛け合わされて発生した」と述べた。

また山本教授は、かんきつ類の機能性成分の有用性に言及。「シィクワーサーの果皮に、ポリメトキシフラボノイド(ノビレチン)が多量に含まれている。抗がん作用、血糖値上昇抑制作用、アルツハイマー病防止などがあり、ブームにもなった。喜界ミカンも同等の高含有なので、今後の展開に生かすことも必要だろう」と提言した。

亜熱帯果樹で有望な種として、「平井Red」や「津之輝」を列挙。「こうした品種で12月~翌2月まで、かんきつ類の収穫が可能になる。販売や生産増が見込める」と話した。

また亜熱帯果樹で、日本の果実輸入量第5位のアボカドに着目。「6万㌧以上を、輸入に頼っている。ビタミンEが多く含まれる健康な果実。奄美群島では低温で枯れる恐れはないので、作り方によっては面白い」と説明した。
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健康増進成分のポリメトキシフラボノイドを含む果皮の加工品開発もアドバイス。事例として、ケラジミカンと鹿児島有機緑茶を合わせたティーバッグ商品が紹介された。

山本教授は「奄美群島の果樹産業発展は、台風や降水量の多い気候面、病虫害の発生、栽培技術向上などが課題となる」と分析。将来の奄美群島の果樹産業を▽秋冬季温暖な気候を有効に活用▽主要果樹、新規果樹、固有の在来かんきつのバランス▽他地域では生産が困難な果樹の生産を推進▽果実を原料とした加工品の開発▽島の魅力・文化の発信―などと展望し「奄美群島にしかないものを上手に使い、奄美を感じるような販売戦略が必要だろう」と総括した。