「山下マジック」随所に施す

国内外で活躍する建築家の山下保博さん

ひび割れない住宅に感嘆
シラス用いた建物見学会

 【東京】奄美出身で世界的な建築家として活躍する山下保博さんがこのほど、都内でシラス(火山性堆積物)を基にしたコンクリート建物の見学会を開いた。住宅は限られた土地を最大限に生かした「山下マジック」が随所に施され、参加者たちは感嘆の声を上げていた。

 都内住宅地の一角にある住宅の玄関をくぐると、本畳の和室が左に、右には廊下が広がる。地下には防音壁を備えたオーディオルーム、2階はリビング、そして3階は寝室となっている。

 特徴的なのは、空を切り取るような窓。建物の角を利用して差し込んでくる光。そこには打ちっ放しのコンクリートの内部とは思えないような温かな空間が広がっていた。

 また66平方㍍の敷地面積と説明されないと分からないほど、広く感じる。一方で、案内した関係者が「3年の時間を経て、コンクリートにひび割れ一つないのは珍しい現象だ」と驚きの表情で解説した。

 その秘密は、大臣認定を取得した日本で初めての建築物の素材。南九州に存在する膨大な未利用資源であるシラスに注目した山下さんは、それを細骨材として利用して2年間掛けて実験を繰り返し、「完全リサイクル」「低酸素化」「高耐久化」などを目的とした最先端のコンクリート住宅にした。

 「クライアントに意見を聞いて100の模型を作り、仏師が木から仏を彫り出すように手を加えて、魂も入れました」と山下さんは振り返る。広く見せるため「模型と現場との格闘を重ねて」結実したという。

 また、空気の流れも巧みに操ることで「夏暑く冬は寒い」コンクリート建築物の弱点も克服。立ち会った居住者も、満足そうに笑顔で応対していた。

 山下さんは、クライアントのニーズに耳を傾け、素材の声を聴く、社会の現在と未来を見据えたクリエイティブな設計集団「アトリエ天工人(テクト)」の代表者。伝統的な建築と集落と文化を次代へつなげるための宿泊施設「伝泊」にも取り組んでいる。

 1月26日には「伝泊+まーぐん広場・赤木名(スーパーさと跡地)」内に、「奄美産マーケット」と高齢者向けデイサービス施設「いのべ・赤木名」をオープンさせた。

 現在は世界各地から街づくりの相談を受け、海外を走り回る。