沖国大南島研・鹿大島嶼研報告会

沖国大南島研・鹿大島嶼研報告会

沖縄国際大学南島文化研究所などの研究者が琉球弧の島の暮らしと環境変化に焦点をあてて講演した(上は同研究所の山川彩子准教授、下が宮城弘樹講師)

 

農耕で島の環境破壊も発生
環境キーワードに3氏講演
奄美の海岸の「オリジナリティ大事に」

 

 沖縄国際大学南島文化研究所は鹿児島大学国際島嶼教育研究センター(島嶼研)との共催で10日、奄美市名瀬の奄美文化センターで奄美大島調査報告会を開いた。琉球列島を調査地域とする両機関の研究者が各自のテーマで講演を行い、人々が島の環境にどのように関わってきたのかなどが語られた。考古学研究者などからは狩猟採集民が農耕を開始してグスク時代につながったが、島の環境破壊も起きていたことを報告。生物学の研究者は奄美と沖縄の海岸を比較し、多様な海岸を独自性と位置付け大事にしていきたいと発表した。

 開会で同研究所の崎浜靖所長があいさつ。同研究所の名城敏特別研究員が司会を担当した。

 島嶼研の高宮広土教授は「狩猟採集民の暮らした島」と題して講演。文字のない先史時代の奄美・沖縄諸島の歴史を解説した。

 奄美・沖縄の先史時代について、「旧石器時代に狩猟採集民がいて狩猟採集から農耕への変遷があった島として大変ユニークな事例」と指摘。遺跡の土壌サンプルから炭化した植物の種子などを回収して、「農耕の開始は奄美では8~12世紀ごろ、沖縄は10~12世紀ごろで奄美が先行する。農耕が始まったことで、環境破壊も始まった」。

 同研究所の宮城弘樹講師は、「考古学からみた琉球列島における農耕のはじまりと島の変化」を報告。琉球列島での農耕の開始と、それに伴う島々の環境の変化を発表した。

 農耕が開始されたグスク時代は、▽城塞的グスクの構築▽鉄器の普及▽農耕牧畜の普及定着▽内陸部開発の進行▽階級社会への転換▽海外交易の盛行▽「琉球圏」の形成の特徴があると指摘。「グスク時代初期の遺跡からは、グスク土器、滑石製石鍋、カムィヤキ、中国陶磁のセットが、出土する。滑石製石鍋は長崎県西彼杵半島で生産されたものが流通し、喜界島の城久遺跡群や北谷町小堀原遺跡でかなりの量が出土している」「農耕の開始に伴い森林が切り開かれた可能性や、植生破壊による土砂の谷地への堆積などが進んだとみられる」と語った。

 同研究所の山川彩子准教授は「奄美大島の海岸砂~南西諸島の浜辺から~」と題して講演。砂浜の構成物や、砂浜の役割などを解説した。

 海岸は、▽自然海岸▽半自然海岸▽人工海岸に区分。「奄美大島の海岸は自然海岸がまだ残っていて人工海岸はほとんどない」と話した。

 砂浜の砂粒構成物は陸の岩石由来か、海の生物遺骸由来に二分されるという。「陸の岩石由来の砂浜は温帯に多く見られ、海の生物遺骸由来は熱帯に見られる」。

 砂浜の役割は①波浪減衰効果②水質浄化作用③沿岸海洋生物の保育場―と明示。「砂浜に離岸堤、導流堤、護岸などの人工物が構築されると、砂の流れが変わり砂浜がやせていく」「奄美大島の海岸は、多様な特徴ある海岸が残っている。奄美ならではの海岸のオリジナリティを大事にしていきたい」と語った。