19県議選  問われるもの

「中2階」から身近さへ

4月1日には新元号が発表されるだけに、新しい時代の到来である改元を目前にした中での県議選スタートとなった。

節目にあたり平成という時代を振り返ってみよう。横たわったのは格差と災害ではないだろうか。「市場原理を重んじる新自由主義経済の進行と、格差社会の出現および非正規雇用者や貧困層の拡大」「二つの大きな震災(阪神・淡路大震災と東日本大震災)と、それに伴う東京電力福島第一原発の事故」。この大震災だけでなく毎年のように気象災害に見舞われ、甚大な被害の発生は台風常襲地の奄美で否応なく実感してきた。「国土強靱化」の名の下、国の旗振りに沿うように手厚い予算が付いた公共事業による防災対策は自治体の施策として進められている。一方で格差の是正は十分だろうか。

財政社会学や労働問題、社会福祉活動の専門家による共著『未来の再建―暮らし・仕事・社会保障のグランドデザイン』(ちくま新書)では、「ベーシック・サービス」を提唱している。子育て、医療、介護などの分野でのベーシック・サービスであり、できる限り少ない自己負担、長期的には無料でこうしたサービスを受給できるようにするものだ。所得制限を段階的に緩和し、最終的には撤廃することで、低所得層の既得権を解消していく。

所得とは無関係にすべての人々に現金を給付する「ベーシック・インカム」が近年流行しているが、サービス給付なら、現金給付と異なり、受益と負担の関係が可視化されることはない。また、必要な人しかサービスを利用しないため、すべての人々に現金を配るベーシック・インカムよりも少ない財源で済むだろう。

共著では、保育や医療のベーシック・サービスを事例で紹介している。埼玉県内にある自治体では所得に関係なく、乳幼児から中学生までの子どもについては、医療費の窓口負担を完全無償化している。18歳まで完全無償という自治体も増えているそうだ。

さて、子育て支援と高齢者支援を二本柱として掲げている三反園県政はどうだろう。昨年10月から子ども医療費助成制度がスタートした。経済的理由により医療機関での受診を控え、それにより「病状が重篤化することがあってはならない」として住民税非課税世帯の未就学児を対象に医療機関などでの窓口負担をなくす制度だ。

3月定例県議会の一般質問で、この制度が取り上げられた。医療費窓口負担のゼロを、まるで低所得層の既得権のように非課税世帯に限るのではなく、すべての子どもを対象にするなど制度の拡充を求めた。知事の答弁は「新たに始めた制度の利用状況の推移を見ながら財政面での体力をつけて今後の施策の検討を進める」との内容だった。

財政面で体力がない現状では拡充できないという判断だ。クルーズ船受け入れのための岸壁整備など公共事業よりも、こうした支援策の拡充優先を求めた再質問に対し、知事の「政治とは、そんな単純なものではありません」という発言が印象的だった。では、県の事業、つまり施策の優先順位を判断するのは知事をはじめとした県当局の権限だろうか。当局が提出する予算や条例などの議案を審査・議決し、予算執行の監視役を担い、また政策提言も行う議会も「車の両輪」として県政の在り方に影響を与えなければならない。

県議の活動で考えてみよう。論戦の舞台として県議会の本会議や常任委員会などがあるが、離島の奄美から鹿児島市の議場まで足を運ぶのは困難だ。ただし本会議を中心にインターネット中継されており、ネットを通して奄美選出の県議の質問ぶり、それに対する知事をはじめとした当局の答弁を直視できる。また、こうした議会での活動等をビラなどで報告したり、県の政策で奄美向けを独自の分析で掘り下げて分かりやすく紹介している県議もいる。

住民にとっての存在感から、国会議員と市町村議員のはざまで「中2階」と揶揄=やゆ=される県議。存在感を示すには、やはり身近さしかない。奄美群島民の声を幅広く丁寧に拾い上げ、県政に届ける県議の姿を見たい。法延長後に新たな施策を含めた奄振事業の展開は県が中心となるだけに、地元市町村との調整役を担う面でも県議の果たす役割は大きい。

県議が身近な存在か、それを実感する方法がある。候補者が選挙で訴える政策(公約)だ。三反園県政に対し、奄美の視点から切り込み、抽象論ではなく具体策を打ち出す。当選後、県議が身近な存在として活動する出発点だと思う。
 (徳島一蔵)