ひたむきな走りに多くの感動

盲ろうランナーとして「喜界島フルマラソン」を完走した斎藤さん(写真左)

喜界島マラソン 盲ろうランナー初出場
東京の斎藤さん、フルマラソン完走 地元の豊原さんが伴走務める

 喜界島2世で東京都の斎藤千穗=ちほ=さん(49)が21日、喜界町で開かれた「東経130度喜界島マラソン」(同実行委員会主催)に盲ろうランナーとして初めて出場、フルマラソン(42・195㌔)コースを伴走者のサポートを受けながら無事完走した。斎藤さんのひたむきな走りに島内では多くの感動を呼んでいる。

 盲ろう者は視覚と聴覚に障がいを合わせ持つ。両親が同町上嘉鉄出身という斎藤さんは2歳で聴覚を失った。また先天的に視力が弱く、35歳の時に「網膜色素変性症」を発症。4年前から視野狭窄、視力低下が進行し、通行量の多い都内では白杖を使用している。

 大会出場に向け、昨年から山登りなどトレーニングを積んできた。当日の伴走者を務める同町の豊原周子=ちかこ=さん(40)とは直前までメールで打ち合わせ。大会前日に来島すると、スタート会場の町グラウンドで「伴走ロープ」を使い最終調整して本番に臨んだ。

 ロープは斎藤さんの左手と豊原さんの右手で結ばれ、少し触れる程度に持つ。伴走者はランナーの腕の振りや歩調を見ながら、ペースが保てるよう細心の注意を払う。

 出場ランナーを応援する沿道の島民はゼッケンに書かれた「盲ろう」「伴走」の文字を見ると太鼓をたたいて応援。両親の出身集落では「ちほ」の手書きボードを手に、「頑張れー」「もう少しだよ」と涙ながらに声援を送る住民の姿も。

 残念ながら大会規定(7時間)内の完走は果たせなかったが、それでも7時間16分16秒のタイム(女子37位)でゴール。ゴールした瞬間、支援者や参加者は二人に多くの拍手を送った。

 完走後、斎藤さんは「初コースで下りでは古傷の右足に痛みが出て歩くこともあった。もう無理かなとも思った。でも周りの応援の声は伝わっていたので、最後まで頑張れました(笑)」と話し、「次はもっと準備して、タイムを縮めたい」。早くも意欲をみなぎらせている。

 健常者にとっても過酷なフルマラソン。斎藤さんを絶えず励まし、ゴールに導いた豊原さんは「ゴールした瞬間、うるっときました。完走できてよかった」と安堵の表情を見せた。

 今大会、斎藤さんを手話通訳でサポートしたのは、県本土から来島した盲ろう者向け通訳介助員の畑中みさよさん。レース中は斎藤さんの体調や休憩タイミングを伴走者に伝える役割を担った。

 「ダブルハンディのある斎藤さんが頑張る姿を多くの人に知ってほしい」。畑中さんは障がい者の社会参画を支援する立場から、市民参加型イベントに積極的に出場することの意義を訴えている。