~歌姫~城南海物語 09=NHK大河ドラマ「西郷どん」前編

~歌姫~城南海物語 09=NHK大河ドラマ「西郷どん」前編

出だしの詞は、維新の英雄の背中を押すようだ=ポニーキャニオンアーティスツ提供

証言者が紡ぐ奇跡の10年
紀行テーマや劇中歌を作詞。西郷隆盛の妻となった「愛加那」に思いをはせ

 鹿児島県民、とりわけ島人に印象深い出来事となった2018年のNHK大河ドラマ「西郷どん」の放映。経済効果の波及など、さまざまな影響をもたらすことになった。それは城南海にも及んでいる。なんと、紀行テーマや劇中歌の作詞に携わったのだ。故郷と全国各地へはもとより、遠く海を越えた絆の一端となったのである。

 「アイツムギ」でデビュー後、ある場所で行われたリリースイベント会場。そのステージの後ろには、噴水があった。「すごいな。こういう風にこれからやっていくんだな」。水しぶきが虹を形成し、デビューを祝っているようで南海の見える景色は輝きに満ちていた。10年後、そんな良好な視界が、さらに広がる「事件」があった。大河ドラマの作詞依頼である。「故郷を皆さんに知ってもらえる、絶好の機会だ」。話があったのは、レコーディングのわずか1週間前、しかも地方の遠征と重なる。時間などないが、不思議と焦りもなかった。方言での作詞に挑むべく、西郷吉之助(隆盛)の妻となった「愛加那」に思いをはせ、関係者から積極的に話を伺った。「光栄なことですから、やるしかないと決めて、関連本を買って寝る間も惜しんで読みまくりましたよ」。

 当時の多忙さを、今では笑顔で振り返るが、その目力はさぞかし強烈だったに違いない。南海が故郷を訪れたのは、レコーディングが終わってからだった。音楽を担当した作曲家・富貴晴美は「『南海どん』の唄声を聴いた時、大きな優しさと切なさを感じ、まさに愛加那そのものに思えました」。南海の才能に驚嘆し、こう言葉を続ける。「ですから、『愛加那』のテーマ曲は、南海どんの唄声でできています。愛加那に成りきって奄美大島の言葉で歌詞も書いて頂きました。その歌詞も詩人の才能もあることに驚きました」。もし、南海自身を曲にしたら、「大地を感じる大曲。あたたかく生命力あふれたサウンド」になるらしい。「城さんのDNAに刻まれた島の歴史や、幼い頃から聞きながら育ったであろう島の方々の思いが、唄に込められている」(当時のNHKプロデューサー・藤原敬久)と、制作現場も納得の響きだった。ドラマのメーンテーマで圧倒的な歌声を披露した里アンナは、「自分自身もデビュー10年まで、いろんな仕事をして、迷うこともあった」と、島の先輩として語る。一方で「声が続く限り大好きな歌を歌い続けていくこと」と、はにかみながらアドバイスを贈る。「シマ歌、ポップスを器用に、そしてどの歌も南海ちゃんらしさがある。すっと耳に優しくなじんで叙情的な歌声」。そう後輩の魅力を語るのだった。「~さぁ打っ発ちゅん時ど~(さあ出発の時が来た)」。維新の英雄の背中を押すような詞は、自身を含めて聴く者全てへの応援歌に他ならない。
 (高田賢一)=敬称略・毎週末掲載