一村作品の背景など語る

一村作品の背景など語る

一村の作品の変化について解説した松尾さん(写真右端)

千葉市美術館 上席学芸員がギャラリートーク

 奄美市笠利町の県奄美パーク・田中一村記念美術館は11日、「東京・千葉・奄美時代の作品を千葉市美術館上席学芸員 松尾知子氏 と巡り味わう『田中一村の美の世界』」を開いた。一村研究の第一人者として知られる松尾さんが、奄美で到達した一村の世界観についてギャラリートーク。作品の変遷や時代背景の解説に来場者は興味深く、耳を傾けた。

 栃木県生まれ、幼少期から絵に親しんだ一村は独学で絵を描き続けた。千葉で創作への道を模索し50歳の時、単身奄美大島に移住。69歳の生涯を終えるまで、亜熱帯の植物や鳥などをモチーフに新たな日本画の境地を切り拓いた。

 1938年、千葉(千葉市千葉寺町)に移った一村は奄美大島に向かうまで20年間住んだ縁から、千葉市美術館は2010年、一村特別展を実施。多くの反響を呼んだという。

 会場で、松尾さんは常設展から現在開催中の小企画展「田中一村の写生展」まで、一村の経歴に沿って作品を紹介。奄美で転換期を迎えたことを象徴する「奄美十二カ月」の一部作品を前に、「一つの集大成として、植物と花を組み合わせた構図の完成形が表れている」などと解説。また内職で描いた写生などの小作品については、経済事情が厳しかった背景なども説明した。

 来島は2年ぶりという松尾さん。「紆余曲折を経て、到達した世界観はほかの画家にはない迫力がある。葛藤の中で生み出されたことを思いながら作品を観てほしい」と語った。

 同町の女性(71)は「作品の背景にある一村の苦悩などを聞くと、鑑賞時にこれまでと違った趣を感じた」と話した。