いじめ誤認「瑕疵ない」と正当化

市教委の回答を受け、大島支庁記者クラブで会見を開いた遺族ら

奄美市中1自殺問題
市教委が遺族に回答 第三者委報告「真摯に受け止めていない」

 

 奄美市の公立中学1年の男子生徒=当時(13)=が2015年11月に自殺した問題で、遺族側が4月、当時の対応や直接謝罪などを求めて要田憲雄教育長に宛てた要望書に対し、市教委が、自殺翌日に「いじめた側の子が責任を感じた」と誤って断定したことについて第三者調査委員会が報告書で批判していたにもかかわらず、「瑕疵(かし)はなかった」と、当時の判断を正当化していたことが13日分かった。遺族側は「第三者調査委の評価と異なるもので、真摯に受け止めていない」と批判を強めている。

 自殺した生徒の父親と鈴木穂人弁護士が同日、大島支庁記者クラブで記者会見を開き、市教委の回答内容を明らかにした。

 市教委は回答書のなかで、いじめと断定した理由について、同級生が自殺した男子生徒らから嫌なことをされたと訴えたことなどを挙げ、「いじめ防止対策推進法の定義に該当するものと判断した」とし、「当時の判断として瑕疵はなかったのではないか」としている。また、いじめと断定したことに対し、「早急に各学校に危機意識をもたせ、再発防止の取り組みを徹底させることが重要」と判断したとした。

 こうした回答に遺族側は「市教委の判断理由は報告書では一切認定されていない。報告書が把握していない事項を新たに持ち出し、いじめと断定したことを正当化しようとしている」、「なぜ、第三者委員会の調査の中で、その旨を明らかにしなかったのか」などと指摘している。

 市教委によると、自殺翌日の11月5日朝、要田教育長らが当時の校長から聞き取りをしたなかで、「嫌なことをしている生徒の中に自殺した生徒の名前が挙がっていた」などと回答、第三者委員会の報告書で事実認定されていない点については、「聞き取り調査では、校長を呼んだ(話を聞いた)ことについては、聞かれていない」としている。

 このほか、回答書では、遺族が求める直接謝罪について、「再発防止対策検討委員会の準備が整った段階で直接伺ってお話をする機会を得る予定」とし、具体的な時期などについては示さなかった。また、要田教育長や市教委の責任については、第三者委報告書が法的責任を前提としていないことを理由に「個人や組織の責任の所在を明確にすることは報告書の趣旨に反する」と回答した。

 公の場での記者会見を求める要望に対しても「見解(説明)は遺族に対して行えば十分であると考えており、記者会見を開くことは考えていない」としている。

 こうした対応に父親は「責任の所在や処し方を明らかにできない市教委に再発防止に向けた取り組みができるのか。謝罪しないのは、責任がないので謝罪しない、と受け止めるしかない。責任逃れのような姿勢の市教委では、再発防止策はできない」と憤った。

報告書を無視、捏造近い内容
第三者調査委員会で委員長を務めた内沢達氏のコメント

 市教委の回答は全く根拠のないもので、驚いている。第三者委員会の報告書を無視しているばかりか、捏造に近いとしか言いようがなく、「真摯に受け止めている」という市教委の言葉とは全く正反対の回答になっている。第三者委員会では、教育長や当時の校長らの聞き取り調査も行ったが、市教委の回答にあるような事実は確認されていない。なぜ、根拠のないことを理由に「瑕疵がない」などと言うのか理解できない。

 再発防止の取り組みは、不都合であっても事実に向き合う姿勢がなければ始まらない。しかし、回答からは、事実に向き合う姿勢が感じられず、とても残念。市教委が設置した再発防止対策検討委員会の委員には教育長ら市教委の担当者も入っている。再発防止への取り組みを期待したいが、当事者が自己保身ともとれるような認識で、この問題をとらえているようでは、遺族らが期待するような再発防止策が打ち出せるのかはなはだ疑問だ。

 真摯な姿勢なければ信頼得られない

 市教委は、第三者委報告が批判した「いじめ誤認」について、「瑕疵はなかった」と、相反する見解を示す一方、責任問題では、報告の「法的責任を前提としない」ことを盾に、責任の所在を示さなかった。都合よく解釈していると言わざるを得ない。

 第三者調査委は昨年12月の報告書で、自殺の原因を「担任教諭の不適切な指導」と認定。市教委の対応について、「情報が限られているのにどうして一夜にしてそのような(いじめた側という)断定ができるのだろうか」「市教委は(いじめ防止対策推進法の)定義に機械的にあてはめて『いじめ』に該当すると判断したと考えられる」「『いじめた側の子が責任を感じて自殺した』とすれば、少なからず学校側の責任を回避することができる。市教委はそういう基本的な認識を急いで揃えたかったのではないか」と、その対応を批判している。

 冒頭では、「市教委が本事案に向き合い、同種の事案が二度と発生しないようにするための再発防止の取り組みや当該中学校の再出発に資することを願って作成した」とも記している。

 市教委はこれまで、遺族や報道機関に対し、「第三者委の報告を真摯に受け止め、再発防止に努めたい」と何度も回答してきた。しかし、今回の回答を見る限り、要田教育長をはじめとする市教委は、報告書を真摯に受け止めているとは感じられない。それどころか、本当に内容を読んだのだろうかとさえ感じる。もう一度、報告書の細部に至るまで熟読、熟考する必要があるのではないか。そうでなければ、市教委が設置した再発防止対策検討委員会への遺族や市民の信頼は得られない。
(赤井孝和)