参院選@奄美②

インバウンド向けセミナーでは、手軽な英会話や案内板活用を呼び掛けている

観光(上)
インバウンド需要地元の環境構築必須

 「確かに外国人のお客さんの来店が増えたのは間違いない。ただカード決済ができないことを知ると、店内の商品をしばらくながめて、出て行く」

 奄美市名瀬の中央通りアーケード商店街のある店主(60代)はつぶやく。奄美では世界自然遺産登録を控え、国内外からの入込が増えると予想。実際、格安航空会社(LCC)の就航、クルーズ客船の寄港増を背景に奄美への観光客数は増加傾向となっており、インバウンドの受け入れ態勢づくりが急務だ。

 【キャッシュレス化の流れ】

 日本政府観光局によると、2018年に日本を訪れた外国人旅行者(=インバウンド)は推計3119万人。統計開始以来、初めて3千万人の大台に乗せた。その余波は奄美にも押し寄せ、昨年、同市の名瀬港には台湾発着のクルーズツアーで約1・7万人が来島した。同市紬観光課は空路からの入込を加えると、奄美大島島内のインバウンド数は年間約2万人と推計。19年も同程度と見ている。

 一方で、急激な入込に受け入れ側の対応が後手に回っている状況。市内の観光施設に勤める女性(37)は「バックパッカーなど単身旅行者が増えた。入場料が千円以下なので小銭が必要だが持ち合わせていないこともあり、対策の必要性は感じている」と話す。

 インバウンドに対しストレスのないサービスの一つに挙げられるのが「キャッシュレス」決済。両替の手間なしで買い物や支払いができるメリットの半面、店側からすれば、▽専用端末の設置▽手数料(取引額の数%)の発生▽入金のタイムラグ―などの理由で導入に踏み切れない事情もあり、浸透は進んでいないのが現状だ。

 また店主が高齢者の場合、新システムへの理解と管理に難色を示すことも少なくない。前述の店主は「これまでも現金でやり取りしてきたし、いまさらパソコンを使う勉強をする気力もない…」。住民の立場で意識は異なる。

 奄美大島商工会議所が、名瀬市街地の約200店舗を対象に実施したアンケート調査をみると、カード決済の導入率は49%(今年4月現在)。中国や韓国など、日本よりも進むキャッシュレス社会に、同商議所は「小売業や観光業は決済形態を見据えながら、インバウンド消費を利益につなげることが求められる」と提言する。

 【おもてなしの手法】

 インバウンドの受け入れ態勢づくりの一環として、英会話でのコミュニケーション力を培うセミナーも近年、増えた。奄美での滞在を充実させるためにも〝満足度向上〟は必須。リピーター増にもつながるが、本土ほど居住する外国人が多くない奄美では「ガイジン・コンプレックス」もあり、言葉の壁は厚く、高い。

 龍郷町の男性(41)は「学校の授業でも英語ができなかったので、(外国人と)対面すると委縮してしまう」。名瀬の女性商店主(70)は「陳列する商品が多く、英語での説明対応が困難。そんな気持ちを察してか、入店しても(客は)すぐに出て行く」。

 奄美産業活性化協議会では、受け入れ時の心構えや国民性の違いを踏まえた実践的な「おもてなし」セミナーを開催する。観光や飲食、交通など業種ごとの対応フローを初歩的な英会話、先進地や企業から講師を招き、受け入れる環境づくりを進めている。

 同協議会の城博哉・実践支援員は「世界自然遺産登録が迫り、インバウンドに対応する環境構築が急がれている。まずは苦手意識を取り除くことが先決」と語る。山積した課題が解消される見通しは、いまなお遠い。