参院選@奄美③

参院選@奄美③

昨年10月に立ち上がった検討協議会では「町にあったクルーズ船寄港地のあり方」についての協議を進めている

 

観光(下)
西古見クルーズ船寄港地誘致の今

 

 奄美大島の最西端・西古見集落。この静かで小さな集落が「大型クルーズ船」という言葉と紐づけして連想されるようになって1年半以上が経った。町民主体の検討協議会も立ち上がり、事態は収束へ向かうかと思われたが、具体的な方針はいまだに出ていない。ユネスコの諮問機関・IUCN(国際自然保護連合)の世界自然遺産登録に関する現地調査がこの夏から秋にかけて予定されており、登録への影響も懸念される。環境保全と大型クルーズ船寄港地誘致という相反する計画が同時進行で進む状態について、順を追って振り返りたい。

 【経緯】

 事の発端は2017年7月に国土交通省が発表した「島嶼部における大型クルーズ船の寄港地開発に関する調査の結果」という資料。世界最大級のクルーズ船受け入れを想定した寄港地開発が可能な地点を評価するもので、奄美大島と徳之島の4市町村9候補地が「寄港適地」と評価された。発表を受け瀬戸内町は、18年1月に報道されるまで町民に明かさないままに、候補地とされた西古見地区への説明会や県への支援要望書提出などを行い、事態は混乱に陥った。

 昨年2月には町内4団体が連名で、クルーズ船寄港地誘致を求める要望書を出していたことについて漁協・観光協会が署名を撤回。同年3月の町議会定例会では鎌田愛人町長が陳謝し、4月以降の町政懇談会を約束した。

 町政懇談会の中での町民の要望を受け、町は同年10月に「クルーズ船寄港地誘致に関する検討協議会」を設置し、協議を重ねている。今年2月の第3回検討協では米大手クルーズ旅行会社「ロイヤル・カリビアン社」がプレゼンテーションを実施。内容に具体性はなかったものの、▽1社のみが町の公募に手を挙げたこと▽非公開であったこと―などが反対派の批判の的となった。

 この〝プレゼン問題〟の後、世界自然保護基金(WWF)ジャパン、日本自然保護協会などの島外の自然保護団体から反対署名、要望署が提出された。また町内でも寄港候補地の対岸にあたる加計呂麻島の住民過半数から計画の白紙撤回を求める署名が寄せられている。3月には第4回検討協があったが、委員全員が意見を述べるにとどまり、いまだ意見の総括には至っていない。

 【問題の所在】

 各機関・団体の要望書では懸念されるのは一挙に押し寄せる観光客への対応が不可能な点、地区内の環境破壊など多岐にわたる。自然保護団体や地元有志による反対団体「奄美の自然を守る会」は、「世界自然遺産登録への影響」についても指摘。同会は今月10日に要望書を提出し、IUCNに計画への懸念を共有した上での現地調査を求めた。

 同町担当者は、「世界自然遺産登録への影響は絶対にあってはならないこと」とし、「そぐわないならやめるべき」と断言しているが、協議がどう転ぶかは検討協に一任されており、議論の方向性が注目される。

 奄美の自然を守る会がIUCNに提出した要望書内で、同会は「環境省と国交省の政策の不一致」についても言及する。実際、今年3月にあった国土交通委員会で委員(国会議員)からの質問に対し、環境省担当者は国交省が発表した資料について、「国交省において検討されたものと承知しており、作成過程で当省は特段の協議等を受けていない」と答弁。環境省とは一切協議せず、国交省が同資料を発表したことが明かされている。

 国交省・環境省の連携不足については反対派のみならず、町も頭を抱える。計画の発端となった国交省は検討協にもオブザーバー参加し、委員らの質問に答えるなどするが、環境省からはこの事案に対する指摘はないという。要望書を提出してきた民間の自然団体に協力を仰ぐなどしているが、世界自然遺産登録への影響が懸念される中で環境省側の意見は必須ともいえるだろう。

        ◇  ◇   

 町担当者は「じっくりと議論しなければ、将来に禍根を残すことになる」とし、時間をかけた協議の必要性を説くが、世界自然遺産登録の可否についてはタイムリミットが刻一刻と近づく。他市町村の今後の開発計画のためにも環境省からの意見も求め、早急に地域の環境・住民生活に配慮した観光のあり方を見つけることが求められる。