参院選@奄美④

人材の確保・育成が課題となっている介護の現場

介護の現場
処遇改善、実態とのずれ

 奄美大島介護事業所協議会という組織がある。介護保険制度開始に伴い発足。当初は奄美市内で介護保険サービス(訪問介護など在宅型)を展開する事業所で構成していたが、その後近隣町村の事業所も加わり現在の会員数は34事業所。通所や訪問介護といった部会ごとに勉強会(研修会)で人材育成を図っていて、「地域共生社会の実現」を会の目標に掲げている。奄美大島の全ての島民が、加齢や疾病、その他の社会的要因に基づくさまざまな生活のしづらさが生じたとしても「自分の住み慣れた地域(シマ)で、その人らしい人生がおくれるようにしよう」というもの。

 在宅福祉サービスの展開で競合し、それぞれの事業所の経営(運営)で利害が絡むにも関わらず一体感を保ち、連絡調整など行政機関との関係も良好だ。会長の盛谷一郎さんは語る。「お互いの事業所本位ではなく、利用者や地域の立場に立つこと。その姿勢を第一にすることで協議会は組織として成り立ち、地域共生社会の実現へと踏み出すことができる」。

 協議会が取り組む人材育成で目指す質の向上。それは専門職として技術、知識を問うだけではない。「むしろ倫理観が最も大事ではないか。スポーツで用いられる『心技体』も心が最初であり、技術や知識以上に倫理(道徳やモラル)の大切さを心掛け、勉強会などでも浸透を図っている」(盛谷さん)。

 ▽人材確保

 求人の現状が示すように奄美でも人手不足が各業種共通する課題だが、なかでも顕著なのが「医療、福祉業」。名瀬職安管内の5月の新規求人数では最多が医療、福祉(170人)で、100人超は同業種のみだった。求人難(人手不足)は介護の現場が特に深刻と見られている。背景にあるのが他業種との賃金格差だ。ただし奄美では異なる。時給でみても介護職の方が上回る場合もある。鹿児島県の最低賃金の時給は761円。奄美ではぎりぎりの7百円台の時給が多い中で、高齢者などの訪問介護を行うスタッフの求人では1100~1200円も提示されている。

 労働としての負担があるかもしれない。そうした部分にも負担軽減につながる介護ロボットの開発のほか、介護リフトの導入が進んでいる。「奄美の場合、賃金よりも職場の人間関係、事業主の人材確保・育成の姿勢が左右している。負担軽減のための工夫や改善に積極的な事業主、さらに専門職としてキャリアアップのための資格取得に積極的(費用も事業所負担)なところは職員の離職が少なく、求人難に陥ることもあまりない」(盛谷さん)。

 ▽待遇改善

 介護の現場の賃金格差是正で、国は新たな施策に乗り出す。10月には消費税率引き上げ(8%↓10%へ)が予定されている。増税分は年金や医療、福祉など主に社会保障の財源になる見通しだが、半分は保険料で賄われている介護保険も残りは国の支援で制度が維持されている。今回の増税にあわせて二つの介護報酬改定が行われる。その一つに「特定処遇改善加算の創設」がある。勤続10年以上の介護福祉士の処遇改善(1人当たり月額8万円加算、それにより年収を440万円以上に)を図るための原資を国(厚生労働省)が提供するものだ。ベテランの介護職の待遇の改善。奄美の事業所にはどう映るだろうか。

 介護事業所協副会長で自らも代表として事業所経営に携わっている勝村克彦さんは国の政策と実態のずれを指摘する。「全体的にみて離職が目立つ傾向にあるのは就労後3、4年経過した介護職。ようやく仕事に慣れ、これからという時に辞めてしまう。経験を重ね介護福祉士などの資格を取得することで待遇も良くなるのに、そこまで待てない。介護職として中核になるまでの育成への支援(手当の充実等)にこそ目を向けるべきではないか」。

 また、ベテランの処遇改善のための加算という今回の取り組みは奄美で多い小規模事業所にとって職員間の待遇バランスが崩れる恐れがあるという。「対象者以外も加算されるが、その割合は二分の一以下など差がある。小規模事業所の場合、今回の改定(特定処遇改善加算)で対象となる職員は数人程度。同じ介護職、または介護の仕事にも従事している看護師、ケアマネジメントを担うケアマネージャー(介護支援専門員)、さらに事務職といった同じ職場内での職員の待遇差や逆転現象により不公平感が生じ、事業所の運営に支障が出る可能性がある」(勝村さん)。

 国が打ち出した施策は大規模事業所に沿った中央の視点であり、小規模事業所がほとんどの地方(地域)の視点が欠けていないか。ずれはひずみに直結するかもしれない。