経済効果とリスクと備え

毎年のように奄美で誘殺されているミカンコミバエ。11月は集中的な誘殺となった

防除で有効なテックス板
奄振交付金活用し独自予算化を

 先月末には約8万2千㌧と過去最大級が名瀬港に初寄港するなどクルーズ船観光は、一隻に数千人単位で乗船することから「経済効果が大きい」とされている。名瀬港への寄港でこのところ目立つのが台湾からのクルーズ船だ。

 過去最多となった2018年度実績(18回、延べ2・1万人)をみてみよう。外国籍のクルーズ船寄港は10回で、このうち8回と大半を占めたのが奄美・沖縄と台湾間ツアーでの寄港だった。乗船客数は延べ1・7万人、船員を合わせると約2・4万人が訪れたことになり、島内観光ツアーや土産で地場産品購入などによる経済波及効果は約4億6400万円と奄美市側は試算している。

 台湾を発着点としたクルーズ船の名瀬港寄港は今年度も続いた。8月2日から9月13日まで計4回に上り、乗船客・船員を合わせて延べ約1万2千人が訪れたとみられ、約2億800万円の経済効果が試算されている。ちょうど夏休みの時期。名瀬市街地、しまバス本社周辺などではスマートフォンを手にした若い人々や家族連れなど台湾からの観光客の集団がみられた。

 来夏にも奄美・沖縄が世界自然遺産に登録されると、こうしたクルーズツアーはさらに盛況となるだろう。大勢の外国人観光客が奄美を訪れる契機となるはずだ。ただし経済効果だけでなくリスクにも目を向けたい。世界自然遺産を求めて大勢のツアー客が訪れた場合、利用制限が徹底されないと国立公園指定地域などの過剰利用により、自然環境の改変や生態系のかく乱といった「オーバーユース問題」が表面化するだろう。

 リスクは自然環境面だけではない。産業への影響も考えられる。11月に入り瀬戸内町の請島・加計呂麻島では、果樹・果菜類の害虫ミカンコミバエが集中的に誘殺(11地点で計16匹)された。防除のためにも探らなければならないのが誘殺要因。奄美や沖縄での誘殺では、距離的に近い周辺発生国(台湾や中国南部)から季節風や台風といった風による飛来(飛び込み)が要因として挙がる。6~8月の誘殺は気象状況から飛来とみられているのに対し、11月は、21日にあった県大島支庁主催の説明会でも「風向き等から飛来は考えられない」とした。

 請島での誘殺では同じトラップ(わな)で複数確認されたことから「発生の可能性がある」とされているが、その要因はなんだろう。関係者からは台湾からのクルーズ船との関係を指摘する声もある。台湾産の果実が船内に持ち込まれ食後等に海上投棄、あるいは台湾発着でミカンコミバエが船内に侵入することはないか…。防除マニュアルでは漂流物も調査対象に入っている。しかし道路事情等もあり県によると請島周囲での確認は難しく、町や地元住民に聞き取りをしても漂流物の確認はできなかったという。

 要因は特定されていない。だが、毎年のように誘殺が確認されている中、タンカンやマンゴーといった有望な特産品を本土に安定的に出荷し果樹農業を成長させていくためにもリスクへの備えを万全にすべきだ。

 防除で有効なテックス板。説明会に出席した農家代表からはこんな意見があった。「誘殺を受けてのテックス板設置ではなく、沖縄県のように年に3~4回、テックス板を散布できないか」。沖縄では誘殺後の初動防除ではなく、侵入警戒対策として定期的に防除が進められている。しかも独自の予算(沖振法の交付金活用)のもとで。

 奄美の対策費は農林水産省の消費・安全対策交付金(年間約20億円)で充てられているが、あくまでも全国枠であり、国産農畜水産物の安全性確保へさまざまな取り組みを支援することから、ミカンコミバエ対策での活用は予算が限定されていると言っていい。テックス板の備蓄など常に島内に備えて年間を通した対策を可能にするためにも沖縄の取り組みを参考に、奄美も奄振交付金の活用で独自の予算化へ踏み出せないだろうか。ぜひ議論し、奄振によるミカンコミバエ対策費の予算化へ関係機関による要請活動を期待したい。

 また、今回の請島や加計呂麻島は道路事情の問題で陸地でのテックス板設置が必ずしも十分ではないことから「最初から航空防除に取り組んだ方が効果的ではないか」という意見もある。沖縄県の対策では航空散布も取り入れている。「沖縄並み」は、ここでも求められている。
 (徳島一蔵)