海洋教育指導書を編集

「海の学びと人間形成」について語る日置特任教授

日置特任教授が編集したガイドブック

両親が和泊町出身 東京大学大学院 教育学研究科・日置特任教授
新たな時代の海洋教育指針 「海洋史観」へ発想切り替え訴える

 【東京】激増するプラスチックごみによる生態系の破壊、水産資源の乱獲防止と持続可能性の追求など、人類に突きつけられた海を取り巻く課題は厳しさを増す一方だ。そんな中、新たな時代の海洋教育の指針となる指導書『海洋教育指導資料(小・中学校編)学校における海の学びガイドブック』(東京大学大学院教育学研究科付属海洋教育センター編著、大日本図書、2000円+税)が出版された。

 急速に進んだグローバル化、AIなど加速度的に進む技術革新。そこに海の環境の激変も加わり、新時代に対応した海洋教育の指針が求められていた。本書はそうした時代の変化を受けて2017年に改定された学習指導要領に沿ったもので、具体的・いきいきと海洋教育指導ガイドがまとめられ、極めて密度の濃い一冊となっている。

 「教科書」なので、一般の読者にはなじまないが、海と共に生きてきた奄美で、本書を手引きにした海洋をめぐる講演会などが行われれば、大人にも子どもにも大いに有意義だろう。

 著作・編集の中心になったのは、日置光久東京大学大学院教育学研究科特任教授。鹿児島県生まれで、両親は沖永良部の和泊町出身。父親の転勤で小学校5、6年を喜界島で過ごした。「このときの2年間はまさに総天然色で光輝いている。おかげで私は書物ではなく体験の達人として、海洋教育の講演をさせてもらっている」と語る。

 今年の9月28日には品川の三州倶楽部で、一般財団法人「自然環境振興財団」(鯖田伸理事長)が主催した講演会にも登壇。「海の学びと人間形成」と題して、「学校ストライキ」や国連での演説が話題になったスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさん(16)にも触れながら講演した。

 日置特任教授が特に強調したのは、大陸・大地は離れ離れだが、海はつながっているということ。これまでの「大陸史観」「大地史観」にとらわれず、「海洋史観」へと思い切って発想を切り替えていくことの重要性を訴えた。

 なお、この講演会の主催財団は関東を中心に500校で、プラスチックごみを減らすためにペットボトルのふたを回収するボランティア活動を行っていて、奄美での活動も検討中という。

 日置特任教授によると、海洋教育の現場では、
子や孫のために全国の仲間が連携しようと、すでにさつま市など海洋教育推進市町村が27も誕生し、海の学びを社会と生活に結び付けているという。

 また、子どもたちの実感を育てるため、岸和田の科学館ではちりめんじゃこを解剖し、ポケモンならぬちりめんモンスターを「ちりモン」と名づけるなど、アクティブラーニングも実践。

 その他では全国の学校と東大が連携して、児童や生徒らを船に乗せる活動も実施。感想を聞くと、すばらしい絵や作文で応えることが報告されているという。海洋とのふれあいが子どもたちの能力をいきいきと育てることの実例だろう。

 本書の出版が、島の人々と海との関係を改めて考えるきっかけになってくれればと願っている。(永二優子)