コロナ・ショック 試練の先に~7~

しまバス社長代理・勝村さん

キャンセルが相次ぎ、出番なく駐車場に並ぶ貸し切りバス

唯一の路線バス存続の岐路に
観光客減で貸し切りキャンセル相次ぐ

 2月末に政府の自粛要請が出されて以降、クルーズ船の寄港が相次いでキャンセルとなった。4月17日には島内でも感染者が確認され、学校は休校、イベントなども自粛が続く。新型コロナウイルスの感染が全国に拡大するなか、島外からの観光客はほとんどいなくなり、イベントなども自粛が相次いでいることで、人の移動が大きく減少している。貸し切りバスの利用も大幅に減少、感染防止のため市民らの外出自粛も重なり路線バスの利用も減るなど島内の交通業界を取り巻く環境は厳しさを増している。

 奄美大島一円で路線バスを運行する㈱しまバス(本社・奄美市名瀬)が、「会社存続の危機」にあるとして、奄美市に財政支援の要望書を提出する事態に陥っている。同社社長代理の勝村克彦さん(49)は「社員の給与カットなど身を切る覚悟で臨んでいるが、民間企業の努力だけで乗り切ることは難しい」と厳しい現状を語る。

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 同社によると、新型コロナウイルスの影響による貸し切りバスのキャンセルは、影響が出始めた2月が170人だったものの、3月に入り一挙に3448人と大幅に増えた。4月も3833人に上っており、5月は6324人とさらに倍近くまで増えている。すでに9月の予約分までキャンセルが出ており、2~9月の総キャンセル数は1万4829人、貸し切りバス計約700台分に上っている。キャンセルに伴う減収は4月現在、約5600万円となっているが、勝村さんは「感染終息の時期が見通せないなか、6月以降のキャンセルもさらに増える可能性がある」とし、今後、減収幅がさらに拡大する可能性を指摘する。

 同社の2019年度(18年10月~19年9月)の収支状況によると、路線バスなど乗り合いバス事業(宇検村分含む)の赤字は約5300万円。このほか不動産事業なども赤字となるなか、会社経営を支えているのが貸し切りバス事業だ。年間約2億1600万円の売り上げがあり、費用などを差し引いた収支は約6700万円の黒字。路線バス事業の赤字を貸し切りバス事業の黒字で補てんすることで、会社として何とか経営が成り立っていた。

 しかし、新型コロナウイルスの影響により、貸し切りバス事業は、かつてない大幅な減収が見込まれる。さらに、住民の外出自粛や航空便の減便などにより路線バスの利用客も減少、国や県、市などによる補助金収入を含めても、「最終収益が大きくマイナスになるのは確実」という。
勝村さんは「最終的には1億円近く売り上げが減る可能性もある」との見通しを示し、「島内外で移動自粛の動きが続く中、営業活動などもほとんどできない。今は全く打つ手がない状態」と肩を落とす。

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 同社は3月からスマートフォンを利用して路線バスの時刻を検索できるシステムやインターネットの専用アプリでの乗車券購入システムを導入するなど、新たな利用客獲得に向けた取り組みを始めたばかりだった。ホームページもリニューアルし積極的な情報発信で、路線バスを活用した新たな観光メニューの提供なども検討していた。だが、感染拡大で観光客の来島もほとんどなく、計画していた利用促進策は、効果を発揮できない状態になっている。

 同社は、奄美市に財政支援を求めるに当たり①全社員対象に5~9月の給与最大50%削減と夏季賞与の削減②路線バスを減便し、運転手等の人件費及び燃料費など運行経費を削減③利用客が少ない路線の廃止検討―を行う方針を示している。

 勝村さんは「乗務員数の見直しや走行距離を減らすことで1千万円の経費削減を目指していく。しかし、それだけで赤字すべてを補てんすることは難しい。一民間企業を支援するというのではなく、奄美大島唯一の路線バスを守るという視点で行政には支援をお願いしたい」と話す。

 要望書を受け取った同市商工情報課の向井渉課長は「唯一の路線バスである、しまバスが果たしている公共交通機関としての役割の重要性などを考慮しながら、支援の在り方を検討していきたい」としている。