コロナ・ショック 試練の先に~8~

奄美大島介護事業所協・盛谷会長

集団感染の危険性がある福祉施設では出入口での感染予防を強化している

高まる不安補い合いサービス維持へ

 「感染拡大した場合、サービス提供を減らした際の利用者の生活、体調面の変化。それに対応するスタッフの確保」(訪問看護)、「感染経路不明のことが多い。当社社員が感染源となり、利用者に感染させてしまうような事態になるようなことがあり得るため、訪問することにも不安を感じている」(福祉用具貸与)、「密集、密接が避けられない状況に不安がある」「完全に消毒ができているか不安。独居の方の対応。事業所が休みになったらどうなるのか心配」(通所介護)、「利用者の介護の行き先(デイ、ショートステイ)が無い場合、在宅介護できるのか?利用者やスタッフが感染した場合の対応」(居宅介護施設)、「少ないヘルパーで活動しているので、ヘルパーがコロナになった場合、家族にお願いしたりするが、独居でどうしても入らなければならない場合は代替をどうしたらよいか?」(訪問介護)。

 これは、介護系の2団体である奄美大島介護事業所協議会(盛谷一郎会長、会員数=介護事業を実施している35法人、132施設・事業所)と県介護支援専門員協議会奄美大島・喜界島支部(中里浩然会長、会員数=介護支援専門員(ケアマネジャー)83人)が共同で行った緊急アンケートで、事業所として不安・疑問なことに関する回答だ。介護の現場では新型コロナウイルス感染症の感染予防・拡大防止の対応に追われている中、92%とほとんどの事業所が不安・疑問を挙げた。

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 事業の運営に携わる事業所代表、前線にいる各専門職らの声を吸収したアンケート。感染症の発生を想定し「縁起でもない話をしましょう」と4月初め、盛谷会長が介護事業所協の役員にSNSで発信したのがきっかけだった。「介護のためヘルパーが利用者宅へ出向いた際、本土に滞在する息子さんが帰省していたという事例があった。われわれの職種では感染の危険リスクが最もあるという認識で、今のうちの準備(対応のシミュレーション)に取り組もう、それが縁起でもない話だった」。盛谷会長は振り返る。

 16日には介護保険事業を管轄する奄美市高齢者福祉課を事業協の役員らが訪問。アンケート調査に取り組むことを事前に伝えた。翌日には通所系・訪問系・住環境系、そしてケアマネと介護保険サービスの各分野を担う事業所に用紙を発送。17日に奄美大島でも感染者が確認されたことで緊張感から関心が高まったのだろう。事業所からの回答は早く、役員らはすぐに結果をまとめ、それに基づいた奄美市長への要望書を22日に提出した。この中では▽感染症対策にかかわる衛生材料・介護用品=行政において積極的な確保を行い、感染した場合の重度化リスクが高い高齢者・障がい者が利用する介護サービス事業所等に優先的配布▽積極的な情報提供=適切にサービス提供を実施・継続するために、人員配置基準や介護報酬基準等にかかわる情報および取扱方針を速やかに提供―を求めている。

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 盛谷会長が所属する特養「めぐみの園」では訪問介護の展開にあたり、感染あるいは濃厚接触者が出た場合を想定し複数のチーム編成による代替が可能な体制を構築している。また、通所サービスも利用者からの同意を得てクラスター(感染集団)を防ぐ対策として利用者が事業所に通うのではなく事業所側が自宅を訪ねる訪問型に切り替え、介護度に応じて時間を短縮しての通所サービスなど利用者、職員の感染防止を第一にしたサービスを実施している。

 一方で事業所規模や介護職員の人材難などから、限られた人材での対応には限界がある事業所も存在する。盛谷会長は語った。「奄美の介護事業所は数々の苦難を乗り越えてきた経験値がある。それを協議会として受け継ぎ生かしていきたい」。経験値とは、ちょうど10年前の奄美豪雨災害にさかのぼる。奄美市住用町では複数の福祉施設が浸水などの被害に遭い、犠牲者も出た。災害で施設に入居し暮らすことが困難になった中、高齢者などの受け入れ先となったのが他の施設だ。入所者や利用者だけでなく職員も受け入れ、福祉施設同士の連携・協力がその後の日常を取り戻す起点となった。

 協議会を組織する各事業所で補い合っていけば、小規模事業所で感染者が出て事業継続が困難になったとしても他の事業所で受け入れることで、サービス提供は維持される。組織としての結束力は、この団体の真骨頂だ。

 今回の問題を契機に介護の質の向上にも盛谷会長は目を向ける。「訪問介護の時間などで、現状でいいのだろうかという所もある。利用者に応じて対応はさまざまだが、排せつ介助などで必要以上に時間を掛けるような介護を改め、集中しながら手際よく短時間でも適切な介護が行われるようにしたい」。感染症対策で行政への要望と同時に、介護事業所協内部でも適正サービスを心がけ、奄美の人々や出身者が不安なく安心して暮らせるシマを目指していく。