コロナ・ショック 試練の先に~13~

あまみ商工会・奥会長

いつもは多くの観光客でにぎわう用安海岸(奄美市笠利町)も、コロナの影響で人影はない

「心の距離は離れないように」
終息後見据えた観光戦略を

 国や県に続き、奄美群島の各自治体でも休業や売り上げ減少などに苦しむ事業所支援のための給付金を支給する動きが出始めた。一方で、個人事業主など金銭的に余裕のない小規模事業所にとっては、手続きなどに時間がかかり、なかなか手元に給付金が届かない状況に「先が見通せず、借金もなかなかできない。事業をたたむことも考えざるを得ない」といった声も。国の緊急事態宣言は解除されたものの、県内では依然として自粛ムードは続いており、奄美では離島医療の現状などを考慮し、島外からの来島自粛の呼びかけが続けられている。

 奄美市の笠利、住用両町と大和村の約300事業所で組織するあまみ商工会(本所・奄美市笠利町)によると、近年、同市笠利町を中心にU・Iターン者が増え、飲食店やダイビングショップなど観光関連の事業を始める人も多いという。会員約300人のうち、同市笠利町に店舗を構える事業者は232人に上り、うち、約90事業所が個人事業主。ここ数年の間に開業した店舗も多いという。

 同商工会会長で同市笠利町の「奄美リゾート ばしゃ山村」社長の奥篤次さんは、こうした個人事業者について、「やっと、地域になじみ、奄美の新たな観光受け入れ先として定着してきた所だっただけに、新型コロナウイルスの感染拡大は大きな打撃」と肩を落とす。

 観光に携わるU・Iターン者とのつながりで、奄美を再訪するリピーター観光客も多いことから「終息後の受け入れ態勢を維持するためにも、こうした個人店舗への支援を急ぐ必要がある。地元の行政には、できるだけ早い対応をお願いしたい」と奄美市などに早急な支援を求める。

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 新型コロナウイルス感染症対策について、奥さんは「見えない敵との戦いで、島民の心が傷ついている」と感じている。

 4月に島内で2人の感染者が確認された際に、一部で来島者との接触を極度に拒否するなど、差別や偏見に近い対応がとられたことを危惧。「感染防止のために、来島自粛を呼びかけることは大事だが、奄美の良さである、もてなしの心が失われていないだろうか。コロナ終息後も来島者に向けられる冷たい視線が残ってしまわないか」と、不安を抱く。

 琉球と薩摩の間に位置し、二つの異なる地域との交流を通じ、独自の文化を育んできた奄美。奥さんは、そうした奄美の文化を「出会いの文化」と表現、唄あしびや八月踊りなど奄美の芸能が、人と人が出会い、つながりによって生まれてきたことを指摘、「知らない者を受け入れることで、新しい文化が生まれる。外海離島の奄美の人にとって、来島者との出会いは宝。だからこそ、奄美を訪れる観光客に、多くの島民が優しい言葉をかけてきた」と、奄美観光の魅力を語る。

 しかし、コロナの影響で、「ソーシャルディスタンス(社会的距離)」が叫ばれ、人との出会い、ふれあいが極端に制限されることになった。奥さんは「3密(密集、密閉、密接)を避けるため、距離を取ることは大事だが、心の距離まで離れてしまってはいけない」と話し、インターネットなどを活用したリピーターなどへの情報発信の必要性を指摘。「再び、観光客が来島できるようになった時に、感染症対策を実施しながら、どのように出迎えるか、今から考える必要がある」と話した。

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 経営するリゾート施設は5月いっぱい休業を余儀なくされた。それでも6月の開業に向け、「まずは3密を避けるため、屋外で食事やイベントなどが行えるようにしたい。ライブイベントなど、島内在住のアーティストなどとも連携し、奄美でしか味わうことのできない出会いを演出できたら」と、終息後を見据えた出口戦略を考えている。