コロナ・ショック 試練の先に~15~

奄美群島振興開発基金・本田理事長

地場産物の流通情報がデジタル技術の活用で把握できるようになれば、経済の循環が前進する(地場産物を扱う地元市場)

ネット技術活用 経済循環の仕組みを

 学校の卒業と入学が代表的な別れと出会い、行政機関などでは事務作業や制度などの終わりと始まりの年度替わり…3月と4月はわずか一カ月なのに、その間に大きな境目がある。局面の変化に今年の場合、激動が加わったのではないか。

 奄振法と表裏一体の組織であり、法に基づくさまざまな事業を金融面(保証・融資業務)で支援している独立行政法人奄美群島振興開発基金(本田勝規理事長)。コロナ禍にあたり取引先などからの相談対応では、各金融機関と同様、2月28日に相談窓口を設置。4月10日には奄美大島商工会議所が開催した緊急の個別経営相談会に参加したほか、大型連休中も窓口を開けて応じた。来所しての窓口相談、電話相談などによりこれまでのヒアリング件数は160件余りに及ぶ。

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 「奄美での影響では3月には団体客の来島がストップし、クルーズ船の寄港もなくなった。大島紬業界などが参加している百貨店等での催事も中止となり、自粛ムードで飲食店等での送別会開催も見送られた。それでも個別の観光客の来島があり、『影響は出ていないですよ』とする事業者もいたほど。ところが4月に入り、都市部を第一弾に緊急事態宣言が出されてから急激に状況が変わった」。本田理事長は語る。人の流れが止まり、群島内も自粛ムードに包まれ、コロナ禍の影響は観光産業だけでなく業種に関わらず広く表面化した。

 農家などの一次産業を含めて開発基金に寄せられる相談のメインは運転資金の確保。相談への対応を数字でみてみよう。新規保証融資が15件(5月18日現在)、元本の返済を一定期間猶予するなど既存債務の条件変更が29件(同)。コロナ対応の国の制度創設に伴い、民間金融機関の融資の際の保証は県の信用保証協会が行っているが、奄美群島では開発基金が窓口となって取り次ぎをしており、その件数は66件(同)に及ぶ。

 「当基金では、当基金による融資や保証、関係する融資制度などの紹介等、事業者の資金繰り支援に積極的に対応しているところである。金利ゼロでも、新たな負債(借金)を増やすことが心配なので、当面は既存債務の条件変更により手元資金を確保したいという事業者も多かった。また、『高齢で後継者がいないので、資金を借りきれない』という方もいて、事業者の実状にあった対応が必要と感じている」

 全国的に緊急事態宣言の解除が進んでいる。しかし第2波を発生させないためにも予防対策を緩めることはできない。経済の先行きには依然として不透明感が漂う中、融資を受け将来にわたって事業を継続していくには、どのような工夫が求められるだろう。

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 「資金を借りて元本据え置きとなっても、据え置き期間が過ぎる数年後には元本の返済が始まる。それができるように如何に持っていくか。地元の金融機関と一緒になって事業再開、立て直しに取り組む事業者の支援をやっていきたい」。本田理事長はさらに加えた。「コロナ禍で経営が厳しくなった中小企業に資本注入する官民ファンドを政府が立ち上げるという一部報道もある。返済が必要な融資ではなく、出資という形での支援策だ。しかし、報道によると全国で数百社程度を見込んでいるとある。奄美の中小企業への支援策は、今後も必要になってくると考えられる。国や自治体の施策を注視しながら適切に対応できるようにしていきたい」

 今後に目を向ける。「新たなビジネスモデルをつくるという意識も必要ではないか。新型コロナウイルスを想定した『新しい生活様式』が示されたが、観光客の受け入れでも、3密を避けつつ、事業として成り立つ仕組みを作り上げていかないといけない。また、地元の経済が潤うよう、観光客が地元に落としたお金を、地域で循環するようにしなければならない。例えば食材を島外産品に頼ってしまうようでは、その購入のお金が島外に流出してしまう。島外に頼らず地元で賄うことで、地域内・群島内で経済を循環させることができる」。そのための方法として挙げるのがインターネット技術の活用だ。食材の調達ではこんな方法がある。流通面でITを活用し、地元産物の生産状況が瞬時に把握され、それにより仕入方法がわかるようになればホテルなども注文がしやすくなる。仕組みを構築したい。

 「海によって本土と隔たりがあり、距離というハンディを抱えている離島こそデジタルの先進地になるべき。奄美群島は本土から380㌔~600㌔も離れているのに約10万人もの人が住んでいる。離島でこれだけのまとまった人口は全国的にも珍しいだけに、そこで経済が循環する仕組みをつくれば全国のモデルとなる。会社以外の場所でのリモートオフィスやオンライン教育・授業、オンライン診療などが注目されているが、経済面ではオンライン市場もある」。商品を並べるだけでなく、現実の市場のように店主が存在し、店主と会話しながら商品が購入できるようにしていく仕掛けだ。

 コロナなどウイルスの存在を前提にした事業が推進できるか。成長度や将来性などを条件にした金融機関の融資や保証も、時代の転換点に対応できるかに掛かるだろう。試練の先を見据えることでビジネスモデルが鮮明になる。
     =おわり=
 (この連載は川内博文、赤井孝和、佐々木菜々、徳島一蔵が担当しました)