コロナ禍を乗り越える

福島ミネさん。東京の武蔵野赤十字病院で勤めたのち、1993年から沖永良部徳洲会病院で勤務。看護部長や副院長、顧問を歴任し、2019年退職

「相手のこと考えて」
沖永良部徳洲会病院元顧問 福島ミネさん

 【沖永良部】新型コロナウイルスの感染を防ぐため、政府の専門家会議が「新しい生活様式」を提言した。和泊町在住で沖永良部徳洲会病院元顧問の福島ミネさん(83)は、これからの生活の中で「相手の立場になって考えることが大事」と訴える。コロナ禍を乗り越える方法を聞いた。

 ―緊急事態宣言が全面解除され、人の行き来が増えると考えられるが。

 感染症の影響で島に帰って来られなかった人も帰ってくるし、きっと都会の人もやって来るだろう。そういう人を悪者扱いしないためにも消毒を徹底する。人と食事をする時も、衛生上のことを考えて付き合えば悪いことはない。自分自身を守りながら、相手にも心遣いをして欲しい。

 ―重症化のリスクが高いとされる高齢者にとって、運動の機会が減るのは心身の衰えにつながる。

 体を動かすのは大事なこと。家の中でも出来ることはたくさんある。テレビで一日数回体操をしているので一緒に体を動かす。入浴も体を活性化させるために重要。そして着替えるという行為にも注目して欲しい。清潔を保つだけでなく、気分が明るくなる。

 ―島内には独居のお年寄りが多く、日常生活で困ることが出てくるのでは。

 孤独になるほど気分が落ち込んでいく。私は、墓参りのついでに親せきの家に寄り、声をかけたり、欲しい物を聞いたりしている。ちょっとしたことだが、相手もすごく喜んでくれる。人の心を和ませるのが介護における基本だと思う。

 ―新型コロナの感染拡大で医療従事者が誹謗=ひぼう=中傷を受けている。

 私がいた沖永良部徳洲会病院には地元出身のスタッフが多く、ほとんどが家族を持っている。新型コロナの対応で大変な思いをしながら頑張ってくれている。心配なのはその子ども達。傷ついた心はなかなか癒されない。病院では何かしら問題が起きた時に、会議の中で提起してみんなで話し合う。お互いに問題を共有することで解決の糸口が見つかる。
 
 ◇入院患者の家族として
 
 福島さんは、昨年、病院を退職した。東京の武蔵野赤十字病院で35年、その後、沖永良部徳洲会病院で26年、合わせて61年間、看護師として勤めてきた。「相手の立場になって考えて欲しい」と訴えるのは、多くの患者に寄り添ってきた経験があったからだ。その思いを、コロナ禍でさらに強くしている。

 現在、夫の茂秀さん(90)は病気のため沖永良部徳洲会病院に入院している。新型コロナウイルスの感染拡大防止で、病院は3月下旬から入院患者との面会を禁止。5月23日に面会禁止の一部が解除されたばかりだ。

 福島さんは「(面会禁止の期間中)看護師から洗濯物を受け取り、新しい服を渡すだけ。夫に会うこともできない。新型コロナは目には見えないし、誰が、いつ、どのように運んでくるかもわからない。もしものことがあったらどうすればいいのか。仕事を辞めて、初めて患者の家族の気持ちが分かった」と話した。

 面会禁止が一部解除された当日、久しぶりに茂秀さんと言葉を交わした。「私のことがわかりますか」と声を掛けると、寝たきりの状態だった茂秀さんが福島さんの名前を呼んでくれたという。

 「つらい思いをしたが、このような状況だからこそ自分の周りの人を守ることの大切さをより実感した。自分が出来る最善を尽くせば、必ず新型コロナを乗り越えられる」。福島さんは笑顔で語った。
 (逆瀬川弘次)