群島の視座 県知事選2020④

介護施設で展開されている通所サービス。高齢者の交流の場にもなっている

交流の場へサービス提供の判断
介護

 新型コロナウイルスは高齢者ほど重症になりやすい傾向があるとされている。こうした高齢者が集まる介護施設。職員が歩行、食事、入浴の介助などで高齢者と密着する場面も多いため感染リスクが高い。

 リスクの高さは実際に表面化している。介護施設での5人以上のクラスター(感染者集団)発生は5月中旬時点で全国29カ所、計558人(JX通信社調査)に及んだ。感染者がいっきに拡大することへの警戒からだろう。高齢者が通うデイサービスや短期入所の事業者は、厚生労働省によると全国で858カ所が休業(4月中旬時点)した。その理由として98%が「感染防止」を挙げたという。

 「密になりやすいため影響が大きい」として通所系サービスを行っている介護施設が休業を選択した場合、特に経営面で深刻な小規模事業者への支援は、6月定例県議会でも取り上げられた。県は6月補正で通所介護事業所等サービス継続支援事業(366万2千円)を計上している。休業要請を受けた通所系サービス事業所等が訪問サービスに切り替えた場合や、休業した他の事業者の利用者を受け入れた場合に、新たに必要となる職員の確保等に関する経費が支援の対象だ。

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 奄美市、龍郷町にそれぞれ介護施設があり、通所サービスを行っている㈱和月(白浜和晃代表)。感染拡大で外出自粛、休業要請などが行われた緊急事態宣言発令時、和月はこんな判断を下した。通所サービス利用希望者に対し、利用者や従業員の安全に十分に留意したうえで「引き続きサービスの提供を行っていく」。なぜ休業を選択しなかったのだろう。

 通所サービスの登録者(利用者)は奄美市が約100人、龍郷町約60人。専門職では理学療法士を多く抱えており、リハビリを主体としたサービスが提供されているが、一人暮らし、あるいは家族と同居していても昼間は自宅に一人だけという高齢者が利用している。そんな高齢者にとって介護施設は交流の場となる。「同じ世代同士だけに会話が弾む。昼間、自宅に引きこもり、テレビを見るだけでの生活では社会から孤立してしまう。デイサービスを継続し、交流の場を提供することに、高齢者の健康保持の面で意義があると判断した」(統括マネージャー・白浜幸高さん)。

 社会参加がない、社会的孤立、閉じこもり状態にある高齢者は、「うつ、死亡、認知症、要介護状態に至るリスクが高く、要介護状態も重症化すると予測されている」。これは日本老年学的評価研究が蓄積してきた研究からの考察だ。外出や歩行、人との交流、社会参加は高齢者が抱えるさまざまなリスクを減少させ、「地域全体の高齢者の健康を向上させる機会となる」と指摘している。

 和月では、感染予防対策、利用者・従業員の体調管理を徹底して受け入れた。ただ、それでも利用者のなかには「通所控え」が見られた。デイサービス和月所長でリハビリテーション部主任の津田和也さんは「本人は通所を希望しても、都会で暮らす家族が行かせたくないなどとして訪問に切り替えるケース、さらに通所・訪問すべてのサービス利用を控えるケースもあった」と語る。

 津田さんらは訪問リハビリ、電話での聞き取り(健康状態チェック、ニーズ把握)などで対応した。自宅でもストレッチなどの運動を通し体力や筋力が落ちないよう工夫。理学療法士らの訪問によって身体機能は維持されても、利用者同士で世間話を交わす楽しみ・喜びは得られない。「再び通所を利用し、『本当は通いたかった。自宅では話し相手がいない。やはり、ここがいい』と喜んでいただいた。休業せず受け入れる判断は間違っていなかったのではないか。安全を確保し、安心して来ていただく態勢を今後も整えていきたい」(津田さん)。

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 「全国一律の対応でいいのだろうか。奄美は奄美の事情があるだけに、(休業要請というかたちで)一律に括るのではなく、地域性に配慮してほしい」と語る白浜さんは、介護施設として利用者や従業員の安全を守るためにも行政には「正しい情報」の提供を求める。

 「正しい情報によって現場の職員は正しい知識が得られ、それによって適切な介護ができる。利用者の安全を守るのが私たち介護職員の務め。県政には情報の出どころとしての役割を果たしていただき、不安の解消を図ってもらいたい」。白浜さんは力を込めた。