県知事選振り返る

当選を決め、支援者らと握手をする塩田氏(12日午後11時ごろ、鹿児島市の選挙事務所で)

「草の根選挙」が組織破る
「今でも、前でもない」新リーダー誕生

 過去最多の7人が争う激戦が展開された県知事選は、新人の塩田康一氏(54)の初当選で幕を閉じた。告示前、政党など大きな組織の後ろ盾を持たない塩田氏が、自民、公明両党の推薦を受けた現職を破る結果を一体だれが予想しただろうか。選挙期間中には、新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生、県内各地で豪雨災害が相次ぐなか、「県政の刷新」を選択した選挙を振り返る。

 選挙は事実上、塩田氏と現職の三反園訓氏(62)、元職の伊藤祐一郎氏(72)の保守系3人による戦いだった。告示前は自民、公明両党の推薦を受けた現職優位の戦いが予想された。塩田氏は伊藤氏に次ぐ3番手とみられ、当選には伊藤氏との候補一本化が必要というのが、大方の予想だった。告示直前まで一本化を目指し協議が行われたが、互いに引くことなく、現職優位の情勢のまま選挙戦に突入した。

 当初は知名度不足も指摘されたが、17日間の選挙期間中、流れは徐々に変化していった。三反園氏の4年間の県政運営に不満を持つ多くの有権者が変革を期待。その動きは次第に大きなうねりとなり、「草の根選挙」を展開した塩田氏を押し上げた。

 短期間で情勢が大きく変化したことに驚く半面、この流れは4年前の前回選からつながっていると感じる。全国有数の保守王国と言われる鹿児島県。トップを決める知事選で、2回連続で与党の支援を受けた現職が敗れたことは、従来の組織に頼る戦い方だけでは、有権者に受け入れられないことを示している。

 有権者は、組織ではなく候補者自身の政策や人柄を重要視。塩田氏が告示前後から頻繁に発するようになった「今でもない、前でもない、新しい県政を」の訴えが、新しいリーダーを求める県民に届き、その後の投票行動につながった。

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 初の民間出身知事として4年間県政を担った三反園氏だったが、前回選で当選の原動力となった無党派層の力によって今回、県政からの退陣を余儀なくされた。4年前、「原発のない社会をつくる」と脱原発を主張したが、当選後に発言はトーンダウン。敵として戦った自民党に歩み寄る姿は、従来の支援者に「裏切り」ととられた。県民との交流などに力を注ぐ一方、知事室への入室に制限を設けるなど、職員とのコミュニケーション不足も指摘された。

 告示後、鹿児島市で発生した新型コロナのクラスターや県内各地で相次いだ豪雨災害への対応に追われ、遊説などができず、自民党などの組織頼みの選挙戦を展開せざるを得なかったことも影響した。

 伊藤氏は新型コロナの影響が拡大するなか、「即戦力」をアピール。3期12年間の知事経験などの実績を訴えた。当初、知名度などから現職に次ぐ有力候補とみられたが、72歳という年齢や「一度退いた人」というイメージを払拭できず、支持を広げることができなかった。

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 新知事は早速、県内各地に拡大した新型コロナの感染防止対策に取り組むことになる。医療体制が脆弱な奄美群島など離島地域では、感染が拡大した場合、医療崩壊につながりかねない。一方で、観光振興など、コロナ禍によって疲弊する地域経済回復も求められる。

 「小さな点が線になり、面へと広がっていった。自分の知らない所で多くの県民が支えてくれた」。初当選を果たした塩田氏は当選後、選挙期間中、徐々に支援の輪が広がっていった様子を、こう表現した。

 支援の広がりは、経済産業省の元官僚としての経験と実績、若さ、行動力に対する期待の大きさだ。塩田氏が発信した「今でもない、前でもない、新しい県政」を求める県民の思いに寄り添い、自らの言葉と行動に責任を持つリーダーとして、県民目線の県政を推進してもらいたい。
(赤井孝和)