情報公開の重要性

ミカンコミバエの誘殺や発生状況などの情報が提供されている県の報道機関への発表資料

ミカンコミバエ 誘殺・発生状況伝える
新型コロナでは天城町独自判断

 果樹・果菜類の害虫ミカンコミバエの幼虫が、大隅半島の南端に位置する南大隅町で確認された。雄成虫のみの誘殺と違い、次世代である幼虫の確認は雌成虫の存在を示すもので、ミカンコミバエの繁殖の可能性がある。台湾やフィリピン、中国南部など周辺発生国から季節風などによる飛来ではなく、定着が懸念され、警戒レベルが上昇したと言えないだろうか。果実などを腐らせる幼虫の確認は県本土では初めてで、県内では2015年の奄美大島以来だ。

 5年前のこの年、加計呂麻島などを含めて奄美大島では大量の誘殺があった。初確認の6月30日~12月21日までに合計869匹。週別で最多は10月27日~11月2日の147匹で、市町村別最多は瀬戸内町の700匹、全体の8割を占めた。ちなみに今年度の誘殺状況は県内19市町村に及び合計125匹(9月28日現在)。5年前の奄美大島に比べると少ないものの、前年比3・6倍と急増している。

 奄美大島での大量誘殺を受けて農林水産省は11月4日に防除対策会議を開催。奄美大島全域(加計呂麻・請・与路島を含む)を対象に、果実・果菜類の島外出荷を禁止する移動規制の実施を決定。12月13日から始まり、タンカンなど島外出荷ができなくなったことで県が農家から果実を購入して処分、果実の買い上げ額は約5億7千万円に上った。

 奄美で根絶されたミカンコミバエが再発生したことで多額の公費が投入されたが、5年前と現在で大きく異なることがある。情報公開だ。当時、自治体(行政機関)に勤務していたJAあまみ大島事業本部果樹専門部会長の大海昌平さんは「グアバへの寄生による秋口の誘殺数の増加も情報が公開されず、農家などの住民だけでなく、自治体職員も情報に接していなかった。今回の南大隅町のような幼虫確認に関する情報も発表のかたちで公開されていない。国や県の関係機関は発生地域の自治体だけに伝えたのではないか」と振り返る。情報公開に踏み切らなかった背景として考えられるのが、風評被害への警戒。これについて大海さんは「当時の防除対策マニュアルでは害虫であるミカンコミバエ発生情報が表に出た場合、消費者らが果実などの購入をためらうとして、果樹農業に深刻な打撃を与える風評被害を恐れての判断だったかもしれない。しかしこれは誤った判断。現在のように情報公開を徹底し、隠すのではなく正しい情報を伝えた方が安心や信頼を生み、結果的に風評被害を抑えることができる」と指摘する。

 現在、情報公開の窓口となっているのが県経営技術課。報道機関への情報提供、県ホームページ掲載に取り組んでおり、トラップによる誘殺状況は国の機関である植物防疫所同様、週まとめを毎週火曜日に更新し情報提供、寄主植物調査(幼虫やさなぎの有無を確認し、雌の生息を確認するための調査)結果も伝えている。採取した寄主果実から幼虫の寄生確認という南大隅町のケースでは、幼虫発生の事実を伝えると同時に、ベイト剤散布や航空防除といった対策強化も明らかにしている。

 県内での誘殺確認や発生状況は奄美の農家も注視している。「奄美大島で緊急防除が行われ、タンカンが島外出荷禁止となったときは、交流がある県本土のかんきつ農家らから問い合わせや激励を受けた。県本土の状況に関心を持ち、5年前と同じことが繰り返されないよう、取り入れている初動対応の効果を見極めていきたい」との声もある。

 この情報公開、新型コロナウイルス感染症に関しては十分だろうか。徳之島で初となった天城町の感染者発生では、今後の情報公開の在り方に示唆を与えるような町独自の首長判断があった。PCR検査結果は、鹿児島市以外は県が発表している。離島の場合、判定結果の発表まで1日以上のタイムラグが生じているのが実情だ。そこで同町の森田弘光町長は、住民の危機意識を高め2次感染を防止しようと、県の公表を待たずに町内緊急放送で判定結果を町民に伝え、さらに三密防止など「自己予防対策」を呼び掛けた。

 情報を待つだけでなく入手に取り組み、瞬時に伝える。正しい情報の提供が前提だが、SNSなどによる誹謗・中傷を防ぐためにも情報公開の重要性はますます高まっている。

(徳島一蔵)