「ワーケーション」の可能性

リゾート地の海を見ながら仕事するスタイルの定着はあるのだろうか(写真はイメージ)

リゾートで仕事と休暇満喫
コロナ禍、価値観見直しも
現場から

 新型コロナウイルス感染症拡大対策として自宅でのテレワークやリモートワークを導入する企業が増えたが、さらに進化した働き方として休暇を楽しみながら働く「ワーケーション」が注目を集めている。仕事(ワーク)と休暇(バケーション)の造語で、日本にとっては先進的なスタイルといえる。コロナ禍で価値観の変化が加速しているいま、奄美を含む旅先で仕事をするという働き方は可能か考えてみた。

 勤務地から離れたリゾート地で、リモート会議の参加や報告書提出などの業務をこなしながらリフレッシュ休暇を取る米国発祥の勤務スタイル。日本ではコロナ感染者の多い大都市圏に勤務先が集中していることから、勤務する場所そのものを見直そうという意識の働きが加速した。

 感染リスクの回避と合わせ、関心が高まっているワーケーションの滞在先としての“奄美ブランド”に期待する声は小さくない。

 奄美市笠利町万屋のバローレ総合研究所の勝眞一郎代表=サイバー大学教授=は「立地として(奄美は)抜群」と話し、ワーケーションに適した施設の評価基準「施設スコア」を開発し、奄美大島島内の民泊施設などへの呼び込みにつなげたいという。

 コロナ禍で自宅勤務を経験し、社外勤務に対する抵抗がなくなったことを背景に「ノートパソコンがあれば、働く場を移動させて仕事を行うことに抵抗がなくなる時代が来る。沖縄でなく奄美という選択が増える可能性も出てくる」(勝代表)。

 またインターネットサイトで奄美の情報発信などを行っている㈱しーま=奄美市名瀬=の深田小次郎代表は、「リモートワークなど在宅勤務の進化、発展型としてワーケーションがある」と指摘。勝代表と同様、コロナ禍が働き方を見直すきっかけとした見解は一致しており、少なくとも在宅を含む社外勤務に対する理解、意識の変化は「5年縮まった」と見ている。

 全国的にコロナ感染が広がり始めた5月、同社は子育て中の女性社員を対象にテレワークを導入した。「事前打ち合わせを綿密にし、在宅でも可能な仕事を割り当てた部分はあったが将来の業務形態としては“あり”だと思った」と深田代表。その上で「奄美でのワーケーションがかっこいいと思える時代が来るだろう」とも。

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 菅義偉首相が官房長官時代、移動自粛で落ち込んだ観光産業の復興策の一つとして、観光と仕事を両立させるワーケーション効果に言及した。観光面からすると新たな観光ニーズの掘り起こし、地域的にみると経済振興につながるメリットが生まれるからだ。

 各自治体もこうした機運を踏まえ、施設のWi-fi化など受け入れ環境の整備を急ぐ。2019年11月に発足した「ワーケーション自治体協議会」は10月9日現在、会員自治体は118(15道県103市町村)を数え、奄美では徳之島町と伊仙町が名を連ねる。

 ただ実際の話はそう簡単ではない。社員の勤怠管理が壁となる。ようするに目の届かない社員をきちんと管理できるかどうかが重要だからだ。

 海外では仕事と休暇を分ける文化が定着している。長期休暇も取りやすい。

 「誰にでもできるわけではなく、日頃の勤務態度から判断されるはず」と事業所の意見は手厳しい。日本では休暇と仕事を分けたスケジュール調整のスキルが求められ、導入にはまだ時間がかかるとの見方が占める。

 新型コロナの感染収束の見通しが立たない中、勤務のあり方にはいまも議論が交わされる。ワーケーションはコロナ禍で数少ないプラスの面を持つ魅力がある。

 今回、働き方の多様化が図らずも進んだ。つまり、これまでよりも柔軟な働き方を試す土壌が醸成されたと言え、そうした逆転の発想が奄美の地域おこしにつながる。

 筆者自身は、出社して机に向かわないと仕事に取り掛かれない性分。休暇先で職務を遂行できるかは少々心もとないが、オンとオフの切り替えができるなら、ワーケーションの広がりもそう遠くない先で実現できるかもしれないと感じている。
 (川内 博文)