コロナ禍・奄美のために出来ること =16=

自ら考案した「野球人宣言」を背に甲子園への思いなどを語る指揮官(右上は愛情と期待を込めた指導の様子)

簡単に出場叶った甲子園が与えてくれた試練
本土のチームと奄美のチーム合同の合宿、練習を切望

奄美への思いと、登場人物を紹介しながら次の人にバトンをつなぐ「奄美のためにできること。新型コロナウイルスと私は戦う!」の第16回。東京学館船橋の野球部監督・黒川敏行さんが登場する後編。野球人としての哲学を貫こうとする姿を伝える。(東京支局・高田賢一)

簡単に出場かなった、聖地が教えてくれた「甲子園(人生)に棲む魔物」

「高校2年生を迎えるセンバツ大会で、甲子園の土を踏みました。いきなり大舞台を経験したことで、周りの世界は一変。食べ物も何もかもがぜいたくになりましたね。それが、多感な少年の心を歪めることにもなった。以来、甲子園とは無縁になりました。簡単に経験したことで、甲子園が試練を与えたのです。もっと心の汗をかかなければいけませんね。監督として26年目になりましたが、ベスト4が最高成績。甲子園出場は、兄弟校4校の悲願。そこで、もっと野球に対して素直になれ、と考えたのが『野球人宣言』なのです。島を離れ、鹿児島や関西、関東で大舞台を目指す少年たちにも、通じることだと思いますよ。私事ですが、息子・凱星も故郷を離れ、大舞台を目指しています。常勝軍団・仙台育英を作り上げた、佐々木順一朗さんが監督に就任した学法石川(福島)にお世話になっていますが、1年で既に大活躍。178㌢と体もしっかりしており、大いに期待をしております。決して親ばかじゃないんですよ(笑い)」

コロナ禍でも教え子を夢へ導こうと、野球人としての哲学を貫いているのだ。

「他校と同様に、3月の終わりから5月まで休校で練習も全くできませんでした。やっと再開できたのが6月1日。その間、宮畑(豊)会長からは、リモートトレーニングのビデオを配信してもらい、大いに役に立たせてもらっています。昨年秋はベスト16となり、春にチャンスがあると思っていたのですが、コロナには勝てませんね。この夏の千葉県の独自大会も4回戦で敗退、今は次の舞台を見据えております」

奄美の球児らとの交流を熱望。野球を通じて多くを学んでほしい、そう遠い目で語る指揮官。

「奄美には素晴らしい球場があり、キャンプをやってほしいとの声に、コーチが見に行きました。うちが単独で行くのは、資金面などで困難ですから、例えば、系列校や関東の何チームかで合同で訪問し、奄美の高校のチームと合宿や試合を交わす。奄美の球児たちは、本土の高校との貴重な触れ合いもできるでしょうし、遠征チームも奄美の自然や歴史を学ぶ絶好の機会ともなるでしょう。うちは『東北復興野球交流試合』に、毎回参加しております。第10回の今年はコロナの影響で開催されませんでしたが、子どもたちは震災の現状を肌で感じることで、野球をできる幸せを実感し、さらに夢中で白球を追うことにつなげているのです。『世界自然遺産』に登録される奄美をじかに感じ、島の球児と大切な友情も交わせることでしょう。私も、ぜひ奄美を訪れてみたいですね」

「甲子園」を目指す絆で結ばれたキャッチボールは、千㌔離れようが感触は薄れることはないだろう。黒川監督は「甲子園へ教え子たちと共に忘れ物を取りに行く」とノックバットに力を込める。次回は、黒川さんとトレーニングジム仲間である馬淵澄夫衆院議員が登場する。