継続へ連携㊤~コロナ禍の在宅介護~

コロナ禍でも介護サービス提供継続へ支援チームを発足。第1回目の研修会・説明会であいさつする支援チーム代表の長谷川さん

危機へ結束、「支援チーム」発足

 新年もこの国、いや国際社会の最大の懸念材料は新型コロナウイルス感染症となりそうだ。収束の鍵とも言えるワクチンの研究開発が急ピッチで進み実用化へ動き出しているものの、インフルエンザ予防接種のように誰もが安心して接種できるようになるには、まだまだ越えなければならないハードルがある。冬場になり全国的に感染拡大し、昨年11月以降の「第3波」では特に高齢者施設でのクラスター(感染者集団)発生が相次いでいる。そこで自治体が高齢者施設での新型コロナ対策に一段と力を入れている。

 自治体職員が直接施設に出向き、検温や手指消毒、施設職員の休憩時間の分散などの対策をチェックする巡回指導のほか、ウイルスの持ち込み阻止や、感染者が発生した後の事業継続計画(BCP)づくりだ。

 神奈川県はウイルスを施設内に持ち込まないよう、入居者の家族が面会する際のガイドラインを策定した。予約制やオンライン活用のほか、ついたて越しに面会する方法を紹介し、面会者を通じたクラスター発生の防止を呼びかける。オンライン面会に必要なタブレット端末やウェブカメラなどの導入費用を補助する自治体もある。

 BCP策定の手引を用意したのが静岡県。出勤できる職員が減った場合、人員数に応じて優先する業務を例示し、施設ごとに運営継続に取り組んでもらう。

 介護の専門家からは「重症化リスクの高い高齢者が集まっている介護現場への自治体のコロナ対策支援は、医療現場に比べて手薄。高齢者施設でクラスター発生が相次げば、ケアが行き届かなくなる高齢者が増える恐れもある」との指摘が出ている。

 ■民間主導

 訪問・通所・居宅介護・福祉用具貸与など在宅の高齢者を対象とした介護サービスは、集団生活を送る入所施設に比べるとクラスター発生のリスクは低いかもしれない。ただし感染すると重症化しやすい高齢者をケアするという共通性がある。「命を守りつなぐ」ため利用者(高齢者)の安全確保を第一に、必要とする介護や生活を支援することで在宅介護サービスの利用控え・空白を解消していこうと、奄美大島で新たな取り組みが始まった。

 在宅介護サービス事業者で組織する奄美大島介護事業所協議会(盛谷一郎会長、法人)による展開。昨年月には徳之島全体がクラスターと判断される事態が起きたが、こうした島内で新型コロナが感染拡大した場合でも介護サービスの提供を継続しようと組織づくりに乗り出した。行政(自治体)からの働きかけではない。事業を担う民間の率先した取り組み、民間主導だ。

 介護事業所協が策定した介護サービス提供継続の支援計画では、①利用者の安全確保②介護サービスの提供継続③従事者の安全確保―を基本方針に掲げる。継続してサービス提供の根幹となるのが支援体制の整備だ。介護事業所協と関係団体は、「奄美大島地域介護サービス提供継続支援チーム」を組織し、「奄美大島コロナ警戒レベル」ごとに対応するとしており、この趣旨に基づいて昨年11月、支援チームが発足した。

 支援チームには、全体を統一して管理する代表や副代表、事務局を配置。警戒レベルに合わせて、「レベル1~3実行チーム」「同4~5実行チーム」「収束~回復期実行チーム」といったチームを設け、それぞれにリーダーがいる。

 新型コロナ感染者が施設や事業所で確認された場合、介護サービス事業所は感染対策を徹底し利用者への介護サービスを継続するが、職員が不足するケースなどでは事前に交わされた協定に基づいて他の施設・事業所から応援職員が派遣される。それにより利用者への介護サービスの空白が生じないような体制を作るとともに、感染防止に必要な備品の確保についても支援チームが担う。

 介護保険に基づく在宅介護サービスの展開で競合関係にある事業者。コロナ禍でも事業を継続できるよう、各事業者が連携し、職員の派遣(施設等での受け入れではなく在宅への派遣で対応)で協力し合う。「競合」から「協力」であり、直面する危機に対し、それぞれが持つ技能や知識を一つに束ね、結束して危機を乗り越えていく。

 ■始動

 「サービスを受けられなくなる事態を避けたい、との思いから関係行政機関と話し合いを始めたのが第一歩」。昨年11月下旬、介護事業所協が開いた研修・説明会。支援チームの代表に就いた長谷川大さんは、こう語った。島内で感染者発生に伴う事象として、▽要介護者の利用控え▽サービス提供の不安(従事者・事業所)▽事業者の事業継続リスク上昇―などが考えられる。こうした状況の改善に向けて活動を進めていく。

 最初の研修・説明会には、法人経営者や事業所管理者、奄美大島5市町村(行政機関)担当者らが出席。Zoom活用で会場となった奄美市名瀬のAiAiひろばと各事業所が結ばれるWeb会議方式で開催され、業務の関係で事業所から移動して会議に出席できない職員にも、事業所内で情報に接することができるようにした。専門家らを招いての研修は今後も計画されている。

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 与論島、徳之島と群島内でも感染者が短期間に急増するクラスターが発生し、他の島でもいつ発生しても不思議ではないほど新型コロナは身近に迫っている。発熱などの症状から感染の疑い、あるいは濃厚接触者となった場合、PCRなどの検査を受けなければならない。検査により陽性となると、一定期間の医療機関への入院・宿泊施設などでの療養となる。児童生徒なら休学、就労者は仕事を休まなければならない。従業員数が限られている小規模事業所なら感染によって事業継続が困難になるかもしれない。こうした事態を防ぐにはどうするか。そのヒントが介護事業所協の取り組みから見えてくる。