ミバエ類2種 侵入から根絶までの記録出版

「初期対応が非常に大事」
長年防除事業携わった元県職員

 県農業試験場(現在は農業開発総合センター)大島支場などで勤務し、長年害虫の防除事業に携わった元県職員、田中章さん(77)が『ミカンコミバエ、ウリミバエ―奄美群島の侵入から根絶までの記録―』を出版=写真=、南方新社から発行した。いずれも果菜類に壊滅的な被害を与える害虫で、70年代から80年代にかけて農業技術者らの取り組みで根絶に成功したが、ミバエ類の侵入が続く中、今後の対策に役立つ貴重な記録となりそう。

 田中さんは鹿児島市生まれで、鹿児島大学大学院農学研究科(害虫学専攻)修了。県庁入りし、1968~2003年にかけて農試・各出先機関に勤務、徳之島支場では支場長を務め、その間、ミカンコミバエ・ウリミバエの防除事業に携わった。

 著書では南方系の害虫である2種の侵入から根絶までの歴史を掲載しており、ミカンコミバエが喜界島へ侵入し実験防除が開始されたことや、ウリミバエも久米島(沖縄県)の実験事業から喜界島へ移行したことを紹介。「ミカンコミバエが1968年から80年の間の雄除去法、ウリミバエは80年から89年までの不妊虫放飼法と、合わせて20年間以上の二つの異なった方法で防除事業を行い、見事、根絶防除に成功した」ミバエとの戦いの記録となっている。

 2種のミバエとも奄美・沖縄での発生が根絶されたものの、台湾やフィリピンなどでは生息しており、こうした発生国から毎年のように南西諸島への飛来が確認されている。常に再発生の可能性があり、特にミカンコミバエは昨年、鹿児島県内での誘殺数(調査用トラップによる雄成虫の誘殺)が急増。奄美群島など島嶼地域だけでなく県本土にも及び、県内21市町村で合計150匹、前年(35匹)の4倍強となった。

 田中さんの著書では再侵入対策と根絶の維持についても触れている。発生状況により、防除の範囲、期間など対応は異なるが、「初期の対応が非常に大事」と指摘する。奄美では通算12年余りも勤務したという田中さん。「これまで事業に関する記念誌などは発行されているが、一般の人も入手できるようにと本の執筆に至った。2種のミバエの防除の歴史を知らない人も増えており、もう一度勉強し直すかたちで活用していただければ」と語る。過去の防除の歴史から学ぶ貴重な手引書となっている。

 A5判、184ページ、定価4180円(税込み)、発行部数1000部。南方新社によると今月中旬には奄美の書店でも購入できるという。