アマミホシゾラフグを追いかけて

車いすから小型船に移乗する松日楽さん

 

アマミホシゾラフグのミステリーサークル=佐藤拓磨さん撮影

 

ダイビングする松日楽さん(中央)=栗原亮太さん撮影

 

車いす生活の松日楽さん 瀬戸内町清水でダイビング楽しむ
感激「サイコーです」

 

 アマミホシゾラフグを追いかけて、東京都で車いすサラリーマン生活の松日楽=まつひら=俊介さん(41)と滋賀県在住の金子美里さん(41)の二人が22日、瀬戸内町清水を訪れた。同集落にある(一社)ゼログラビティ責任者の栗原亮太さん(38)の「ミステリーサークルのフグに出会えますよ」とのLINE紹介で、「アマミホシゾラフグに会いたくてやってきた」という。車いす生活者でダイビングを楽しむ松日楽さんらに同行した。

 朝8時半、瀬戸内町油井公園前の浮き桟橋で待ち合わせ。あいにくの雨。古仁屋港から9人乗りの小型船が桟橋到着。潮の満ち引きで桟橋の高さが変わる油井港は「車いすから船に乗降するのに便利だ」と栗原さん。

 8時50分。松日楽さんたちが到着。車いす生活になったのは、17歳の時。バイク運転時に交通事故に遭い、2週間意識不明の重体に。脊髄損傷。下半身は全く動かず、オストメイトの障がい者だが、もともと海好きで、サーフィンをやっていたことから、ダイビングの資格を取ろうと大奮闘。伊豆や沖縄の海で潜り続け、PADI(アドバンスオープンウォーターダイバー)のライセンス所有者。「やんちゃ坊主」と金子さんと栗原さんが笑って話す。

 9時15分。ダイビング用のウエットスーツに着替え、車いすから小型船へ移乗。大人2人がかりで松日楽さんを抱えて移動。気温22度。海の中も同じくらいの22~23度。

 時速20㌔で、清水沖に向かった。久根津沖にはマグロやカンパチの養魚場が広がる。22日は3本のダイビングを行う予定で、アマミホシゾラフグのミステリーサークルを見つけた栗原さんが自信満々にポイントへ船を近づけた。9時41分着。

 栗原さんが先に潜る。「右の推進計は何メートル?」。スタッフが「29から30㍍」と答えると「ちょい左。OK。フロート(浮き)固定」と、前日潜って見つけたミステリーサークルの位置から離れた場所へ固定。「この辺はホットコーラルでサンゴが多く、やわらかい」とスタッフ。「めっちゃ、きれいだ」と浮いてきた栗原さん。

 松日楽さんは、朝食代わりのおにぎりを頬張り、ダイビングに備える。松日楽さんが「このままの人生なら楽しまなきゃ」と心が入れ変わったのは、成人式の時のこと。事故当時は人生暗かったが、「くよくよしてるわけにはいかないと、気分が変わった」と明るく笑う。

 一昨年の冬に金子さんからアマミホシゾラフグの存在を知らされ、「奄美に行くしかないじゃんね」と、昨年からフグ探しに瀬戸内町に訪れていた。昨年はフグに会えず、奄美海洋展示館で、アマミホシゾラフグの展示物説明を見学のみ。今年こそはフグに会えるとわくわくして金子さんと訪れている。

 10時26分。松日楽さんの1本目。フードにマスクを着け、フイン装着。スノーケルやタンク、レギュレターセットなどの器材を装着したBCジャケットは、先に海に投げ込まれる。総重量25キログラム。続いて松日楽さんがボートのへりから海に投げ込まれた。仰向けのまま、ジャケットを海中で着込む。ところが、5分もしないうちに「耳が抜けない」とのことで、船へ戻る。みんなから「酒の飲みすぎですよ」と注意された。

 金子さんたちは、「フグのヒレの動かし方がとてもかわいくて、サークルを作る作業をしている所を見られて本当にうれしい」と興奮の声。先に潜った豪州のケアンズで、ダイビングガイドで「&オーシャン」というショップをしていた佐藤琢磨さん(40)も「いいもん見れましたよ。サイコーです」とアマミホシゾラフグに大感激。「今日のタイミングはすごい」と栗原さんも大興奮。

 10時50分。リベンジの2本目に松日楽さんが挑む。投げ込まれた。今回は深い。時間も長い。浮上したのは11時26分。「つがいは見れなかったけど、二つのサークルが並んでいて右側のを見た。サイコーです」。栗原さんが松日楽さんのスーツの首の前後を開けて60度のお湯をかけた。冷えた体を暖めるため。

 移動して3本目は大和浜で。午後0時26分。マグロ養殖場のえさにありつくために群をなすコバンザメと黄色いサンゴの群れとの遭遇。フグとの感激度は違ったが、満足げな表情。油井港へ帰還。午後1時17分到着。

 「すべての人に海遊びを」と、バリアフリーの宿とマリンアクティビティーを楽しめる場の(一社)ゼログラビィティ。松日楽さんは、2016年のオープン前から知っていて、アマミホシゾラフグが奄美にしかいないことに驚き、訪れて見れたことに感謝。今回は、「水深30㍍のところ潜ったけど、フグがメスをおびき寄せる場を作るなんてすごい。嫁募集中とフグのようにサークルは作らないけど書いてね」と笑わせた。
                     (永二優子)