湧昇流(アラビア海)過去1000年間で弱化

喜界サンゴ研ら発表、温暖化原因か

 NPO法人喜界島サンゴ礁科学研究所は26日、北海道大学大学院理学研究院および喜界島サンゴ礁科学研究所、総合地域環境学研究所の渡邊剛講師、九州大学大学院理学研究院および喜界島サンゴ礁科学研究所の山崎敦子助教、北海道大学大学院理学院博士後期課程の渡邉貴昭さんらの研究グループが、過去1000年間と比較して、現在のアラビア海の湧昇流が弱まっていることを発見したと発表した。この弱化傾向は近年のインド洋における急激な温暖化とインド亜大陸における緩やかな温暖化が原因とみられている。同研究グループは今後、インド洋周辺の気候や漁業に対して広く影響が出ると予想している。

 湧昇流とは海底から海の表面に海水が向かう流れのことを指す。風で海水表面の水が移動すると、不足した海水を補おうと下から水が湧き上がってくる。

 このときに輸送される海洋深層の海水は栄養に富んでおり、付近の海域は植物プランクトン、動物プランクトン、魚などが集まり好漁場が形成される。

 同グループは2016年、アラビア半島・オマーン国南部のマシラ島で海岸に打ち上がった造礁性サンゴ(化石サンゴ)と現生サンゴを研究室に持ち帰った。年代測定の結果、この造礁性サンゴは1167年~1967年に生息したサンゴであることが判明した。

 造礁性サンゴの骨格には年輪が刻まれており、過去の大気・海洋の環境変動が1週間~1カ月程度の細かい精度で記録されているという。同グループはこの造礁性サンゴを年輪ごとに区切って化学分析を行い、過去の湧昇流の強さを復元した。

 分析の結果、「近年のアラビア海の湧昇流は弱化傾向にある」ということが判明した。この弱化傾向は、温暖化によってインド洋の夏季モンスーン(季節風)が弱化していることが原因と考えられるという。

 同研究グループは、アラビア海の湧昇流は現在も続く温暖化に対して弱まり続ける可能性が高く、今後もインド洋周辺の気候や漁業に対して広く影響を及ぼすことが予想されるとしている。

 同研究所の渡邊剛理事長は「地球温暖化の影響が湧昇流の弱化というかたちで現れている。同様の現象は日本沿岸でも十分に起こり得る。引き続き、地球温暖化に関する調査・研究を進めていく」と話した。

 同研究結果は2021年5月24日公開のGeophysical Research Letters誌に掲載された。