守るには⑥ 保全への針路深る

林道「山クビリ線」入口付近ゲート写真(提供写真)=徳之島町山集落=

丁寧な話し合いこそ
徳之島・林道「山クビリ線」

 2019年7月、徳之島利用適正化連絡会議は林道「山クビリ線」の「山ゲート」「支線ゲート」「花徳ゲート」それぞれのゲートを施錠。およそ11・5㌔(山ゲートから花徳ゲート間)にわたり、徳之島町林道管理条例に基づく利用ルールの運用を開始した。徳之島の世界自然遺産登録を見据え、希少動物のロードキルや、希少植物の盗掘、盗採を防ぐのが目的だ。しかし、山集落の住民の中には、ゲート施錠までの一連の流れに不満を抱く人々もいるようだ。

 ▽施錠までの過程

 徳之島町企画課自然保護係の米山太平係長・同町農林水産課林務水産係の西本修一主事によると、林道「山クビリ線」のゲート施錠に関する取り組みは17年7月に始動。環境省、林野庁、県、徳之島三町で話し合いが持たれ、「林道『山クビリ線』には施錠が必要」と、行政としての方向性が定められた。
 同年、住民、民間団体、国、県、市町村からなる徳之島利用適正化連絡会議を設立。会議を複数回重ね、19年4月1日から同年6月30日まで利用ルールを試行。「認定ガイドの方々がWEBカレンダーを用いた予約システムを使えるかどうか、およびゲートに施錠をしないとどうなるか検証した。結果、認定ガイドの方々は問題なく予約システムを利用でき、林道を利用する人々の数もそれほど多くないため、施錠することに問題はない」と結論づけ、「運用上の課題は見られない」と判断。同会議は同年7月1日から利用ルールを本格的に実施した。実施内容は▽ゲートの施錠▽認定ガイド等の利用者(許可対象者)は申請手続きを行い、ルールに則って利用―など。この際、集落住民は区長に鍵を借りれば自由に通行することができるとした。
 利用ルール施行後、山の三つの集落の区長及び山共有林組合から同会議に、集落住民への利用ルールの周知を目的とした説明会を早期に開催するよう要望があった。そして19年8月28日、上花徳、轟木、港川、内千川、山里集落の住民を対象に住民説明会が実施された。また同年7月と12月にも、山の3集落区長および山共有林管理組合との意見交換会が開かれた。
 20年8月9日には、上記集落の住民を対象に徳之島エコツアーガイド連絡協議会による自然観察会が実施された。また同年9月、住民へチラシを配布し、利用ルールの周知徹底を行った。
 現在林道「山クビリ線」のゲートの鍵を保有しているのは、警察、消防、環境省、県、徳之島町農林水産課、山の三つの集落の区長、エコツアーガイド連絡協議会。
 同課米山係長は「不明点、要望等あればいつでも住民に対して説明を行う」としている。

 ▽住民の声

 林道「山クビリ線」のゲート施錠について、山の地域住民の中には、さまざまな思いを抱えている人々がいる。山の住民数人に話を聞いた。
 住民目線では、ゲート施錠当時、「山の住人は置き去りで、突然行政や環境省の取り決めが降りてきたような印象」だったという。
 住民説明会については「住民説明会の告知は集落内放送で軽く呼び掛けただけ。それでは、たいていの人は『自分には関係ない』と思ってしまう。実際、住民説明会に参加したのは20人程度だった」「きちんとした説明が行われていないように感じる」という声があがった。
 ゲートが施錠されたことについては、「自分の山なのだから、規制をかけられたくない」と胸中を吐露する場面も。
 集落住民は鍵を使用すれば「山クビリ線」を通ることができるが、「区長さんは集落に常駐しているわけではない」「そもそも鍵を区長さんが預かっていることが浸透していない」と、もどかしそうな様子。
 世界遺産登録については「世界自然遺産になったとしても、山には何のメリットもない」と話す人もいた。
 集落の住民は、行政に対して今何を求めているのか。「山の住民は明治時代からずっと『山クビリ線』を守ってきた。林道の管理の仕方も知っている。これからも住民に守らせてほしい」「7月に正式に世界自然遺産に登録されたら、規制はもっと厳しくなるのか説明してほしい」「今後、地元の人の気持ちを尊重しながら進めていくのかどうか聞きたい」「本当にゲートに鍵をかけるしかないのか、ほかの解決策はないのか、住民も一緒に考えていきたい」など、今後の説明を求めるとともに、住民参加型の山クビリ線の管理を主張する声が多く聞かれた。
 自然の保全のためのルール作りは必要だ。しかし、行政・地域住民・関係機関との丁寧な話し合いがなければ、相互にすれ違い・温度差が生じ、不安や反発を招く可能性もある。世界自然遺産登録のルール作りに向けて、林道「山クビリ線」の事例から学べることがあるのではないだろうか。
     =おわり=
 (この連載は藤浦芳江、重田涼子、徳島一蔵が担当しました)