涙の世界タイトル奪還

奥田選手(ミツキ=左)を果敢に攻め込む吉田さん(三迫=右)

歓喜でチャンピオンベルトをまく吉田さん。左が椎野トレーナー

沖永良部2世の吉田実代さん
女子世界スーパーフライ級 約半年ぶりの返り咲き

 【東京】沖永良部島2世の吉田実代さんが、29日に文京区の後楽園ホールで行われた「世界ボクシング機構(WBO)女子世界スーパーフライ級タイトルマッチ」で勝利。王座奪還を果たした。約半年ぶりの返り咲きを、さらなる成長の場にしていた。

 「何としてもベルトを取り戻す」との闘志を絶やさなかった吉田さん。5回に王者の奥田朋子選手を右フックで揺らす。6回には低い体勢からボディへ。さらに7回には怒涛のパンチでロープを背負わせた。回を追うごとに気迫をみなぎらせる姿に、会場の拍手は倍増していく。攻め続けての判定勝ち(2対1)で、ついに世界の頂を取り戻した。「チャンピオンじゃなくなっても、変わらず応援してくれた人たちがいてくれた」。万雷の拍手に指笛(ハト)。吉田さんの言葉が震え、温かいものが頬をぬらした。

 王者と挑戦者が入れ替わった半年前と同じ対戦相手。いきなり1回にダウンを奪われ、その後負傷判定で敗れた戦いは大きなショックとなっていた。ボクシングを嫌いになり、進退を考えるほど落ち込んだ。だが「たくさんの仲間に奮い立たされ、少しずつリベンジに向けていけた」という。勝ち負けを繰り返しながらも前を向く所属ジムの選手や三迫貴志会長の言葉が、消えかけていた闘志を再燃させたのだった。セコンドで声を枯らした椎野大輝トレーナーには、右のクロスで応えた。「相手のパンチは全部見えていたし、3ラウンドからは楽しめる余裕もありました」と冷静だった。

 奪還劇には、さまざまな応援も後押しした。「闘うシングルマザー」に力を発揮してもらおうと、母親が2週間前に鹿児島から上京。長女・実衣菜ちゃん(6歳)をサポート。コロナ禍で沖永良部島からの応援団はなかったが、出身者が拍手に手を腫らした。「電話での激励など、見えない力となりました。お守りの塩と黒ニンニクを送ってもらい、それを食べて試合に臨んだ。今度は島を元気にしたいですね」と笑顔で締めくくった。涙の勝利をばねに、新王者は、既に次のリングを見詰めている。