「登録」自然保護団体関係者の声

5月30日、「大人の世界自然遺産講座」に参加する人々=瀬戸内町・請島=

「脆弱な生物多様性を守らねば」
「本物見たい人を呼び込む」

 ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産委員会が26日、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」について評価結果を「登録」に決定した。奄美の自然保護団体関係者からは「まずはよかった」「誇らしい」と喜びの声が上がった一方、今後に向けて「脆弱な生物多様性を守っていかねば」「豊かな生態系の復活を」「本物を見たい人を呼び込む」などこれからに向けた危機感や課題も多く寄せられた。

 長年奄美の自然保護活動に取り組んできた奄美自然環境研究会の常田守会長は「18年ほど前から世界自然遺産登録に向けて動いていた。まずはよかった。

 登録の最大の目的は『大陸で滅んだ遺伝子の保護』にある。地球上でここにしかいない動植物がたくさんいるから 」。その上で、「これからの課題は子どもの教育。次世代に伝え、自然を残していけるかが問われる。それから、奄美の経済は自然なしに語ることはできない。世界自然遺産には島の未来がかかっている。自然を壊さないようにして、観光に生かす。リゾート化はせず、本物を見たい人たちを呼び込む。本物を伝える知識を持つことが大切。大事なのはこれから」と力強く語った。

 奄美大島エコツアーガイド連絡協議会の喜島浩介会長は「世界自然遺産が決定したが、生物多様性といっても非常にもろいので、しっかり守っていかないといけない。オーバーユースに気をつけるよう指摘されており、ガイドは自主ルールを制定して守っていくが、入ってくるお客さんをどうコントロールするかもガイドの仕事。ルールといっても、条例をつくるとぎくしゃくして堅苦しくなる。だから、人間が自制心を発揮して、世界遺産として続けていければ。観光面では豊かになる可能性を秘めているのでチャンス。手放しでは喜べないけれど、自制心を発揮して守っていきたい」と緊張感をもって話した。

 NPO法人奄美野鳥の会の鳥飼久裕会長は「奄美大島、徳之島、沖縄島北部という中琉球の照葉樹林は固有種を多く育む、生物多様性に富んだ森。今回、それが世界標準で認められた点はとてもうれしく、誇らしい。一方で、世界自然遺産としては生態系が脆弱すぎると指摘されていることを忘れてはいけない。多くの人が暮らす島で森―川―海の連続した生態系を守っていくのは簡単ではないが、私たちの先人は、自然と共生して暮らしてきた。先人の知恵に学び、豊かな生態系を復活させることが私たちの使命だと思う」と生態系の復活に言及した。

 NPO法人徳之島虹の会の政武文理事長は「紆余曲折があったが、ようやく実現したか、という感じ。登録に向けて推進した者として、関係者や四つの島民とともに喜びを分かち合いたい」と、喜びを率直に語った。そして「徳之島の登録地は小さく、観光客の増加による負荷が見込まれるので、山や森だけでなく、集落歩きや海のレジャーなど分散を図るツアープランを創出し、お客さんに楽しんでほしいと思っている。いちばん難しいのは島民への普及啓発活動だが、最近は勉強会などへの参加者も増えている。島民への普及啓発を大切にして、世界の宝となったこの島を100年先もつないでいけるようにがんばっていきたい」と意気込みを語った。

 奄美海洋生物研究会の興克樹会長は「世界自然遺産登録へ向けての取り組みは、海洋生物調査の大きな可能性の流れとして大変有意義だった。登録が延期になったことでサンゴ礁を中心に調査が進み、水生外来種への関心も高まった。奄美の海に世界自然遺産の登録地域はないものの、国立公園地域に指定されている。今後も地道な調査を続けていく」と延期を経ての登録を前向きに捉えた。そして、「80年代に確立したダイビングを始めとして、年々観光客が増え、近年はホエールウォッチングの注目度が上がっている。さらに来島者が増えることを見据え、利用のルール策定が必要。環境保全に対する意識が高い観光客を対象とするなど、ターゲットを絞った集客を考えてもいいのでは」と提言した。