「奄美・沖縄」世界自然遺産に

世界自然遺産登録決定の喜びに沸く奄美大島会場

ユネスコ世界遺産委が登録決定

 ユネスコ(国連教育科学文化機関)の第44回世界遺産委員会がオンラインで開催され、26日、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」(奄美・沖縄)を世界自然遺産に「登録」することを決定した。ユネスコの諮問機関であるIUCN(国際自然保護連合)が、5月10日に「登録」を勧告しており、その勧告内容を世界遺産委員会が審議し、正式に決定した。

 日本時間の午後6時36分、奄美・沖縄の審議が始まった。議長はまず、IUCNに奄美・沖縄について説明を求めた。IUCNはクライテリア(判断基準)10の「生物多様性」により世界遺産の一覧に記載することを提案。この推薦書は2017年に一度提出されたが、その後新しい推薦書が提出されたこと、生物多様性の推薦理由、完全性を確実にするために、追加の保護管理を要請していること、などを説明した。

 午後6時39分、議長は異議がなければ決議を行いたいと問いかけ、委員会は承諾。午後6時42分、決議を採択し、世界自然遺産への登録が決定した。「島の宝」が「世界の宝」になった瞬間だった。

 日本政府は委員会にお礼を述べ、その後小泉進次郎環境相が動画で登場。感謝の言葉とともに「新型コロナウイルス感染症が収まったら、ぜひお越しください」と呼び掛けた。

 奄美・沖縄それぞれの会場では、世界自然遺産登録視聴会が行われ、この経緯と決定の瞬間を共有した。

解説 課題に向き合って前へ

 奄美・沖縄が世界自然遺産候補地に選ばれたのは2003年。「登録」まで18年、長い道のりだった。国内の世界自然遺産は1993年の屋久島と白神山地(青森、秋田)、2005年の知床(北海道)、11年の小笠原諸島に続く5件目。鹿児島県は全国で唯一、二つの世界自然遺産が存在することになる。

 奄美・沖縄の世界自然遺産候補地について、日本政府は2017年2月、ユネスコ世界遺産センターに推薦書を提出。同10月にIUCNの専門家が現地調査を実施し、18年5月に「登録延期」を勧告。遺産としての価値は認められたものの、分断された遺産候補地の連続性や沖縄島北部にある米軍北部訓練場返還地の編入、希少種保護や外来種対策、観光地の適切な利用調整などを求められた。

 政府はいったん推薦書を取り下げ、IUCNから指摘された課題に真摯に取り組み、推薦書をまとめ直して19年2月に再提出した。同年10月にIUCNの専門家が追加編入されたエリアなどを現地調査、20年5月ごろに最終的な評価をとりまとめて同委員会に勧告、夏に審査される予定だった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大により、同年4月に同委員会の開催延期が決定。これに合わせてIUCNの勧告も先送りとなった。

 21年5月10日にIUCNが「登録」を勧告。世界遺産委員会は7月16日からオンラインで開催され、奄美・沖縄の案件は26日に審査、正式に「登録」決定となった。

 しかし、これは新たなスタートでもある。未解決の課題は山積している。奄美の自然環境を取り巻く課題は①重要な地域の保護②希少動植物の保護(ロードキル、盗掘盗採等)対策③生態系に悪影響を及ぼす外来生物対策④持続可能で良質な利用体験の提供(オーバーユース対策等)―など。特に、IUCNは登録勧告時に、▽西表島の観光客の制限▽アマミノクロウサギ、イリオモテヤマネコ、ヤンバルクイナなどの希少種の交通事故対策の強化▽自然再生のアプローチを採用するための包括的な河川再生戦略の策定▽緩衝地帯における森林伐採の適切な管理―などを要請し、22年12月までに対応状況をユネスコに提出するよう要請している。早急な対策が必要だ。

 それでも新たなステージに突入した。「奄美の宝」は「世界の宝」になった。よりよい宝を次世代に残すためにも、これからみんなで進んでいきたい。(藤浦芳江)