非狩猟鳥であるにも関わらず発砲被害が目撃されたヒシクイ(提供写真)
奄美には「滅多にこない」とされる大型の水鳥が奄美大島で確認されている。国指定天然記念物のヒシクイも飛来しているが、非狩猟鳥であるにも関わらず、ヒシクイを狙った散弾銃の発砲が目撃された。しかも集落の住宅地の近くで行われ、安全面の問題を含む違法行為に対し、自然保護団体だけでなく猟友会関係者からも憤りの声が挙がっている。
現場は奄美市名瀬小湊の集落裏の水田。目撃したのは、NPO法人奄美野鳥の会会長の鳥飼久裕さん。鳥飼さんが11月30日午後に観察していると、オオハクチョウの幼鳥と8匹のヒシクイを発見。同会の把握では奄美大島でのオオハクチョウの確認は初めてで、石垣島でも40年ぶりに確認されたという。
鳥飼さんは「オオハクチョウは極めて珍しい鳥。奄美大島や石垣島で観察できたのは、東京都心で54年ぶりに降雪を観測するなど先月24日に東日本を中心に襲った寒波の影響ではないか」としている。
同様の大型の水鳥では、鳥飼さんはヒシクイも見つけた。2年~3年に一度は奄美大島で観察されているものの、ヒシクイが8羽も飛来していたのは珍しいという。鳥飼さんが天然記念物ヒシクイを観察していると、反対方向(100㍍ほど離れた箇所)から「白い軽トラックとみられる車がするすると近づいてきた」。運転席から降りた男は散弾銃を持ち、銃を構えて2発発砲。銃声に驚いたヒシクイやカモなどは一斉に飛び立ったが、2羽のヒシクイが散弾銃の被害に遭い、水田の中でばたばたと翼を動かしもがき、飛べなくなっていたという。
鳥飼さんは「ヒシクイは非狩猟鳥。カモ類は狩猟できる(一部には非狩猟鳥も)が、ヒシクイは大型のガンであり、カモ類よりも大きく、狩猟免許の交付にあたって講習を受けているハンターなら区別できるはず。しかも住宅地の近く(集落近くの農道からの射撃)でもあり、明らかな違法行為。ハンターを示す帽子も着用していなかった」と振り返り、「ごく一部のモラルの低いハンターの行為だが、野生動物にとって不幸であり、また事故の危険性もある」と問題点を指摘する。警察に通報したものの、再び現場に戻ると違法ハンターは立ち去った後だったという。
11月15日から翌年2月15日までは狩猟期間(イノシシやシカの狩猟期間は鹿児島県の特例で11月1日~同3月15日まで)。奄美市猟友会(泉正男会長)によると、狩猟期間を前に毎年、会員の登録(狩猟登録証の交付)が行われており、同会の登録者は11月11日現在で366人。登録の際には事故を防ぐ安全面の注意点のほか、狩猟できる動物(鳥28種、獣20種の計48種)の周知を図っている。
今回の違法行為について泉会長は「狩猟者として守らなければならないルールがあり、非狩猟鳥も判別できるはず。一部のモラルのない行為が猟友会全体に悪影響してしまう。大変残念で迷惑であり、起きてしまったことがもどかしい」と語り、こうした行為が繰り返されないよう改めてルールの周知を図る方針だ。
―メモ―
オオハクチョウ 全長140㌢。主に北海道と東北の広い湖沼や河川、海岸などに飛来。コォーと甲高くのばす大声で、よく鳴き交わす(日本野鳥の会ホームページより)。
ヒシクイ 湖沼・農耕地に生息。全長78~100㌢。体全体が暗褐色の大型のガン。マガンよりも大きく、顔や頸がより暗色。ユーラシア大陸北部で繁殖し、日本を含む東アジアや中央アジアなどで越冬する(奄美野鳥の会発行『奄美の野鳥図鑑』より)。