価値守るために② 保全上の課題とは

問題解決に向け捕獲した個体の譲渡先確保も必要になる(資料写真)

安楽死盛り込んだ計画

 ノネコ問題に対し奄美大島では今年3月、環境省、県、地元5市町村で「ノネコ管理計画」が策定された。同計画は今月から2027年まで10年間で実施し、ノネコが奄美大島の生態系に対して及ぼす影響を排除し、発生源対策を講じて生態系保全を目指すという。計画に対する住民の意見照会で、捕獲したノネコの殺処分に否定的意見もあったが、譲渡できなかった個体を安楽死させる方針が決定された。研究者はやむを得ない方針と肯定し、継続的に問題を発信していく必要があるとした。

  「奄美大島における生態系の保全のためのノネコ管理計画」の作成方針は、17年9月に開かれた世界自然遺産候補地科学委員会の奄美ワーキンググループの会合内で発表。この計画が発表されると10月には、10の団体からなる市民グループ連絡会が環境省那覇自然保護官事務所などに安易なネコの殺処分をしないよう求める署名が提出されていた。

 環境省などは「ノネコ管理計画(案)」をまとめて、今年2月20日~3月5日の日程で地元5市町村の住民から意見照会を実施。7人の意見があり、計画に賛同する意見のほか殺処分を避けるべきとし、不妊手術を施し一代限りの地域猫としての生き方を望む声なども寄せられた。

 環境省などは住民の意見を踏まえて、管理計画の記述を一部修正。譲渡できなかった個体の安楽死に関して、「できる限り苦痛を与えない方法を用いて」の記述が追加された。

 ▽管理計画

 ノネコ管理計画では捕獲などのノネコ対策と、発生源対策として「ノラネコの個体数低減や飼い猫の適正飼養の推進」に取り組むことなどを明記。ノネコを増やさないために実施するTNR(ノラネコを捕えて不妊手術し元の場所などに放す)事業や飼い猫の不妊去勢などがノネコ対策を効率的に進めるために重要なものと位置付けている。

 奄美大島5市町村は県獣医師会などの協力で、13年度から飼い猫に対する不妊去勢手術の助成や、一部先行開始したノラネコのTNR事業を16年度からは5市町村全てで実施。17年12月末までに飼い猫1813頭に不妊去勢などを施術し、2033頭のノラネコにTNRが行われている。

 ノネコ管理計画では、捕獲された個体は一時収容施設で飼養される。施設は約50頭の収容能力で、診察室や治療室なども整備されるという。

 捕獲後に病気などの検査のほかに飼い猫としての適性などを判別。飼い猫の適性があると判断されたノネコは飼い主を募集し、譲渡先が見つかった場合マイクロチップ装着等行い室内飼いするなど適正飼養を確認した上で譲渡される。

 ▽安楽死

 奄美野生動物研究所の塩野﨑和美研究員は、ノネコ管理計画の策定を評価。「ノネコが人になれるのかどうか分からない。譲渡先が少ないなどの困難もあるかもしれない」とし、「譲渡を受け入れる数が少ない場合は、施設が満杯になり、生態系保全のためにそれ以上、ノネコを山から減らすことが出来なくなることを避けるためには、(安楽死は)やむを得ない」と運営方針に賛意を示した。

 奄美ネコ問題ネットワーク(以下、ACN)は、奄美猫部、奄美哺乳類研究会、NPO法人奄美野鳥の会の3団体などを中心に構成する民間団体。15年に設立され、奄美大島の住民や子どもたちに対して、猫の適正飼養などの啓発活動に取り組んでいる。

 ACNではノネコ問題解決に向け、島内では限界があるので島外の譲渡先探しなどに協力したい意向を示している。塩野﨑さんは「安楽死はやむを得ないが、あきらめずに継続的にノネコ問題を発信していく必要があるのではないか」と話した。

 関係者からは、「人々の意識が少しは変わって来ている」との声も聞こえる。だが、これまでのように猫を放し飼いにしたり、飼えないから捨ててしまうなどといったことでは問題は解決されない。世界自然遺産の候補地に見合う住民意識でありたい。