女子ボクシング吉田実代選手

日本王者(白)と東洋太平洋王者(緑)の二つのベルトを持つ吉田実代選手=知名町=

二つのチャンピオンベルト持ち凱旋
沖永良部に感謝 次は世界に挑む

 【沖永良部】昨年10月、ボクシング日本女子バンタム級初代王者となった沖永良部2世の吉田実代選手(30=EBISU K`s BOX)。今年3月、同級タイトル戦で初防衛を果たすと、8月には世界戦への足掛かりとなる東洋太平洋女子バンタム級王者を奪取、その1カ月後、地元鹿児島で東洋太平洋王者のタイトル防衛に成功した。11月13日、二つのチャンピオンベルトを携え沖永良部に凱旋。応援者の前で「ようやくここまでたどり着いた。次は世界タイトル。必ず取りたい」と意気込みを語った。

 鹿児島市生まれの吉田選手は、父親が知名町出身。小学生時代はソフトボール、中学生になってからはダンスに熱中した。格闘技に出会ったのは20歳の時だ。

 「将来やりたいことが見つからず、日本から飛び出してみようと思った」。選んだのは全く未経験の「格闘技」留学。行き先はハワイ。留学初日、いきなりのスパーリングに「グローブって何、ジャブって何なの、という状態だった。でも、最初にやってみて楽しいと感じた。ソフトボールやダンスをしてきたけど、自分にしっくりきたのが格闘技だった」。3カ月間の留学から日本に戻ってくる頃には、気持ちは固まっていた。「格闘技で生きていこう」。

 帰国後、総合格闘技やキックボクシングを経て、2014年にプロボクサーに転向。プライベートでは、結婚、出産、離婚も経験した。昨年10月の日本女子バンタム級タイトル戦は、新設されたばかりの同級初代王座をかけた一戦であり、戦うシングルマザーVSモデルボクサーの戦いとしても注目を集めた。

 試合では、身長が16㌢高い相手の懐に、頭を低くして一気に飛び込みパンチを連打、終始インファイトに持ち込んだ。嫌がる相手はリーチの長さを生かしてジャブやカウンターで迎え撃とうとするが、構わず前に出た。

 最終ラウンドまで戦い抜き結果は判定に。リングアナウンサーが名前をコールした瞬間、涙があふれ、リングの上で愛娘の実衣菜ちゃん(3)を抱きしめた。

 日本王者から1年。東洋太平洋王者を獲り、次の世界タイトル戦に向けても余念がない。「東洋太平洋タイトル戦の相手(フィリピンのグレテル・デパス選手)はとても強かった。パンチの重さ、スピード、技術も高かった。世界戦は、もっと強い選手が出てくる。仕事を抑えて練習中心の生活に切り替え、いつ試合になっても勝てるよう準備したい。チャンスは何度も来ない。一発で取りたい」。

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 沖永良部を訪れた11月13日夕、知名町小米字防災センターで「勇気の授業」と題して講演会を行った。地元の子どもたちに向上心を持つこととチャレンジ精神の大切さを伝え「趣味でも好きなことを見つけてほしい。好きなことを続けられるのは幸せ」と話した。

 質疑では、来場した保護者から「子どもにボクシングをさせたいか」との質問に、「やりたいと言ったらさせるけど、基本的にはさせたくない。減量も大変だし、女子ボクシングはメジャーではないので苦労も多い」と、競技者であり、母親として、ボクシングの世界の厳しさを吐露した。

 この日は、2本のチャンピオンベルトと一緒に、試合で着用したグローブとガウンなども披露。夜には、5月に立ち上げた後援会の関係者らを集めて激励会が開かれた。

 吉田選手は「毎回、温かく迎えてくれて感謝しかない。世界チャンピオンになって『沖永良部と言えば、吉田実代だよね』と言ってもらえるよう頑張りたい」と話した。(逆瀬川弘次)