さらなるTNR推進を

鹿大共同獣医学部の協力で行われた勉強会(提供写真)

自治体と大学協定 獣医師の講義実現
啓発資料HPに公開、活用へ

 奄美市が鹿児島大学との協定で実施しているノラネコTNR事業支援を利用し、2月に飼い猫の飼い主を対象とした勉強会が行われた。同大の獣医師などが講師になり、ノラネコが引き起こす感染症や適正飼養などを講義。同市は今後も奄美大島ねこ対策協議会と連携し、普及啓発に取り組みTNR事業の全島的推進を図る考えだ。

 同市と鹿大の包括連携協定は、2006年3月に締結したもので18年度から協定に基づき、同市のノラネコTNR事業支援を開始している。

 TNR事業は、ノラネコを捕獲して不妊手術を施し、元いた場所に戻すことでノラネコの増殖を抑制して山に行きノネコ(野生化した猫)にならないよう行われる事業。専門家によると事業の効果を出すには、その地域にいるノラネコに対し、約75~92%の高い不妊化率が求められるという。

 ノネコの発生源や供給源になり得るノラネコは奄美大島島内に数千~1万匹ほどいるとされ、島内5市町村からなる奄美大島ねこ対策協議会(会長・平田博行奄美市環境対策課長)ではノラネコが引き起こす様々な問題解決に向けTNR事業などに取り組んでいる。

 同大の支援内容は、共同獣医学部の獣医師2人と看護師1人を派遣し市職員が捕獲したノラネコに不妊手術するもの。支援が始まったことから同市の18年度TNR事業実績は、大幅増となり5市町村でも最多を記録した。

 19年度は前年度より派遣回数も増え、新たな試みとして飼い猫(登録された猫)の飼い主を対象とした勉強会を今年2月16日に開催。市環境対策課担当者によると、「ネコ管理モデル地区事業」を実施した同市名瀬大熊町が含まれる上方地区の飼い猫登録者約100人に案内状を送付し、会場の有屋公民館には上方地区の町内会長などと飼い主たち約20人が参加した。

 同大から獣医師である藤木誠教授(50)と古澤悠さんが講師として参加。講師からはスライド資料などで、飼い猫の病気と適正な飼い方が分かりやすく伝えられた。

 飼い猫の病気では屋外でノラネコから人に伝染する人畜共通感染症の一種・SFTS(重症熱性血小板減少症候群)にかかり飼い主にうつしてしまい、国内でも感染者が死亡した例があることなどを紹介。藤木教授は「参加者は初めて聴く内容だったのか、しっかりと講義を聴いていた。またノラネコの糞の扱いや、ノラネコへの接し方などの相談も受けた。支援は20年度も計画しているので、奄美市と連携して飼い猫の適正飼養など啓発に努めたい」と話した。

 同協議会は適正飼養の意識醸成に飼い主だけでなく興味のない住民にも飼い猫条例を知ってもらうためとして今年3月、飼い猫条例啓発マンガ『精霊戦隊 ネコレンジャー』を作成し島内全世帯への配布を開始。マンガ冊子にはイベントで披露されたコミカルな寸劇を、実写の背景や条例のポイントを解説したイラストなどと合わせた内容が収録されている。

 今後5市町村のホームページ上でもマンガ冊子のデータの公開を予定していて、さらに市ではセリフやあらすじを朗読した音源も公開し、学校現場やさまざまな団体の活用を構想しているという。

 同協議会の平田会長は、これまでのTNR事業などの取り組みを振り返り、「適正飼養の普及啓発や、ノラネコのモニタリングが問題解決に欠かせない。(TNRの)高い圧をかけて継続し、どのように対策を行うかロードマップを作り成果が出るまで取り組んで行きたい。市が行っている飼い猫登録台帳の精査とノラネコのモニタリングを、他の町村でも実施してもらえればノラネコの実態が把握でき住民の意識向上も図られ問題解決により近くなるだろう」と話した。

 ねこ問題の解決にTNRなど発生源対策の実効性も欠かせない。奄美市では鹿大の支援でTNR実施数が増加したが、市内にいるノラネコの実数は不明でモニタリングによる実態把握が必要。他の町村でもTNR事業を進めて、猫の飼い方でも世界自然遺産にふさわしい島を目指してもらいたい。

(松村智行)