奄美大島観光協・越間会長
新型コロナウイルスの感染拡大による移動自粛要請で、奄美大島の観光業界は「リーマン・ショック、東日本大震災による影響よりも今回は深刻かもしれない」と危機感を募らせる。奄美・沖縄地域の世界自然遺産登録を見据えた航空路整備や格安航空会社(LCC)の就航、観光クルーズ船の寄港増を背景に同島入込数は年々増加しているが、世界的な感染拡大から、先の見えない観光産業の不振を不安視する。
「観光への影響は2月ごろから薄々感じていたが、急激に(減少を)感じたのは3月下旬、安倍首相の臨時休校要請から」
奄美大島観光協会(会員約60業者)の越間得晴会長は特に団体旅行が落ち込み、4月の予約キャンセルが続いていることを明かす。「状況の深刻化でさらに客足は止まる。大都市圏の移動自粛要請で奄美への入込は相当減り、世界的に見ても終息には半年以上かかってもおかしくない」。
同島は、都市圏直行便が就航する奄美空港(奄美市笠利町)、毎年国内外からクルーズ船が寄港する名瀬港(同市名瀬)と空・海の玄関を有するが、国内外で自粛ムードが広がると目に見えて訪れる観光客は減った。
ウイルス感染患者数の拡大を受け、名瀬港のクルーズ船寄港は3月3回、4月3回、5月1回が軒並み中止。それに伴い、島内での観光オプショナルツアーはなくなった。
また航空各社も国内の主要空港を結ぶ路線の減便化や運休を進めており、観光客数が減る傾向が止まらない状況。県港湾空港課によると奄美空港の乗降客総数(速報値)は、2月は7万9475人(前年比8081人増)だったのに比べ、3月は6万5661人(同1万7367人減)。月、前年比で3月は数字を落としていることが分かる。
◆ ◆
観光産業にとって、観光客が来ないということは仕事が発生しないことに直結する。市内の事業者からは「昨年のこの時期に比べ売り上げは半分以上ダウン。今後も見通しは明るくない。繁忙期の夏シーズンまで終息していないとしたら…」。今後も客足が遠のくと警戒をあらわにする声が少なくない。
奄美の観光事業者の多くは中小。来島者数が減り、売り上げが大きく落ち込んだ事業所が休業状態となっている中、雇用や組織の維持など課題を抱えている。
奄美の観光状況が最近順調だったため体力がある事業所もあるようだが、越間会長は「従業員にも生活があり、雇用側は解雇できない。事業所維持は重要だが運転資金の資金繰りもあり、厳しい経営が続く」と見て業界が直面する問題に頭を悩ませる。
安倍首相が7日発令した、東京など7都府県対象の「緊急事態宣言」も観光機運を一層低迷させる。5月のゴールデンウイークまで自粛を要請したことで期間中、大都市圏からの入込は期待できない。今年は世界自然遺産登録実現となる年として、奄美の観光の飛躍の年という期待を高めていただけに協会側はこの「コロナ・ショック」を隠しきれない。
「これまでもリーマン・ショック(08年)や奄美豪雨(10年)、東日本大震災(11年)など観光への打撃があり、順風満帆ばかりではないことを業界全体が経験しているが、それ以上の打撃に成り得るかもしれない」
◆ ◆
ただ希望も感じている。3月の中旬までは、その時点で奄美では感染者発生報告がなかったこともあり、学生の卒業旅行や家族連れでの来訪があった。自粛ムードが高まりつつある中、あえて奄美を選び、足を運んでくれたことに越間会長は感謝を示す。
さらに5月にはユネスコの諮問機関「IUCN(国際自然保護連合)」の勧告発表時期も迫る。
時間を重ね、インバウンド対策などターゲットに合わせた十分な対策を練る機会ととらえることも大事だという。来島者と接する業務でジレンマもあるが、「協会としても感染予防と接遇の両面で細心の注意を払いたい」と会員に感染対策の徹底を呼び掛けた上で、「苦境を乗り越えることで雇用主と従業員の連帯感も強まる。乗り越えられるよういまは辛抱と頑張るだけ」。